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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

ハインライン『デリラと宇宙野郎たち』『地球の緑の丘』『動乱2100』感想

実はこれまで《未来史》シリーズは特に好きではなく――単体のSFとして好きな『宇宙の孤児』およびそのおまけとしての『メトセラの子ら』を除けば――お座なりに二・三周しているに過ぎなかった。それがここ数日の流れでようやく本格的に興味を抱き、久しぶりにハヤカワ文庫版を(*1)再読してみた。

感想としては一つ一つの短編はやはりさほど面白くはない。ハインライン性が薄いしサイエンス・フィクションとしても比較的平凡に思える(あえて言えば『もしこのまま続けば』と『疎外地』はハインライン性が強めのアクションものとしてまあまあ楽しく読めた)。

そして今回得た新たな感想としては、一つ一つの作品が小説として面白くなくても《未来史》世界を知る材料としては興味深いことだ。例えば:
・『デリラと宇宙野郎たち』では「南極のリトル・アメリカ」なる地名が言及されるが、『人形つかい』にも同名の地名が登場する。まさか『人形つかい』も《未来史》なのか? それとも偶然の一致か。
・『犬の散歩も引き受けます』は「この太陽系にいる知的生命体の種族それぞれの代表者12人」を地球が饗応するのがバックボーンだが、これは人類の植民者なのか非人類なのか? 後者だとするとちと空想的過ぎてシリーズの他の作品と整合しないように思える。天体は少なくとも「三つの惑星と四つの衛星」と述べられており、そのうち具体的には火星、金星、木星、カリスト、タイタンが挙げられている。また、本作であっさり発明された「重力調整機」も高等過ぎて他の作品と整合しないように思える(『帝国の論理』で「反重力船」は登場するが…)。年表によっては本作がシリーズから外されている(らしい)のはそういう事かもしれない。
・『宇宙での試練』:人類がガニメデに到達していることが述べられる。また火星には火星人が存在することが言及される。「先住民」という表現からして人類の植民者ではなく本当の非人類のようだ。大人しくて思索的な火星人像(特に「“ともに成長する”」という概念)は「レッド・プラネット」の火星人を思わせるが、世界が同じというよりアイディアを流用したと考えるべきだろう。
・『地球の緑の丘』:ごくあっさりしているが珍しく火星の直接的描写があり、火星人が存在することが言及される。
・『帝国の論理』:金星人が直接的に登場。形状や大きさなどははっきりしないが『栄光のスペース・アカデミー』の金星人と矛盾はないようだ。
・『地球の脅威』で最初の恒星間宇宙船「プロメテウス号」が建造中あるいは設計中だと語られるが、最初の恒星間宇宙船がヴァンガード号であることと矛盾する。敢えて言えばプロメテウス号がペーパープランのみで終わったのでノーカウント扱いとされている、あるいは暗黒時代を挟んだためその存在が失伝しているとも考えられなくもないが。年表によっては本作もシリーズから外されている(らしい)のはそういう事かもしれない。

……書き始めるときりがない。そのうちブログでなくホームページにまとめよう。

あと、《未来史》シリーズが火星よりも金星をフィーチャーしていることに気付いた。これは珍しい特徴かもしれない。

それと、一つ致命的に良くないことに気付いた。それはアメリカ人特有の夜郎自大ぶりである。たかがアメリカ合衆国という一国が宗教気違いに乗っ取られたからと言ってどうして「人類全体の科学技術の発展がほぼ完全に停滞」したり「惑星間航行がほぼ完全に中断」するのか。お前たちだけが世界ではないぞ。

“書かれなかった作品”について。どうやらインターネット上や日本語書籍における断片的な言説の一次ソースは「Revolt in 2100」のハインライン自身による後書き「Concerning Stories Never Written: Postscript」らしい。そこで八方手を尽くした結果、Internet ArchiveでBaen Book版の「REVOLT IN 2100 & METHUSELAH'S CHILDREN」でそれが読めることが判明。ようやく一次ソースに当たることが叶い、既成の断片的な情報(*2)が正しかったことが確認できた。(*3)

ただし具体的な構想が述べられるのは「The Sound Of His Wings」、「Eclipse」、「The Stone Pillow」の3つだけで「Word Edgewise」、「Fire Down Below」、「Da Capo」については年表に挙げられているだけで何も述べられていない。「Fire Down Below」が南極独立、「Da Capo」がラザルス・ロングの過去旅行だという情報の一次ソースは何なのか? そして「Word Edgewise」はいかなる内容なのか? 疑問は尽きない。


*1 今回初めて知ったのだが、ハヤカワ・SF・シリーズのリプリントではなく訳者や邦題などが異なるようだ。
*2 例えばハヤカワ文庫版『動乱2100』の巻末解説に「浅倉久志訳」として抜粋されている文章の原文もこれだと分かった。ひょっとするとハヤカワ・SF・シリーズ版では全文が翻訳されているのかもしれない。
*3 特に、「火星と金星の独立というテーマは《未来史》シリーズというプロクルステスの寝台の外で2つの小説としてすでに執筆済みである」と本人が明言していることが確認できたのは良かった。デマかとも疑っていたので。そういうことなら『レッド・プラネット』と『栄光の星のもとに』で満足だ。それにしても自分の看板シリーズを「プロクルステスの寝台」とは、ずいぶんな嫌いようだ。
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