私はハインライン・ジュブナイルが好きだ。愛している。これほど素晴らしいものがこの世界に産み出されたという奇跡、そして自分がそれを認知できたという幸運を思うと、身が震えるほどである。
というわけで大半の作品は幾度となく読み返しているわけだが、おそらく最も再読回数が少ないのが本作である。通読回数は長いSF歴を通じてもせいぜい五~十回。最期に読んでからすでに五年か十年は経っているだろうか。
その理由は、ハインライン・ジュブナイルとしては例外的にさほど好きでない作品だったことに加えて、行きつけの図書館の開架に置いていなかったこと、古本屋でお得な出物にたまたま出会わず購入に至っていなかったことである。
それが今回、たまたま図書館で本書を見かけて、2011年に出たことは認知していたものの一度も読んだ事のなかった新訳版だと気づいたので、試しに読んでみたものである。
で、やはりあまり面白くない。やはり主人公には感情移入できないし、物語は起伏がなく精彩を欠くし、SFとしても魅力があまりない。ハインライネスクも無いわけではないが、薄い。
そういうわけで本文から新たに得るとところは無かった。しかし本書から収穫はあった。坂木司という作家(知らない人だ)による巻末解説である。それを私なりに解釈すると、本作の欠点と言おうか特徴は次の2点。
①本作は、ハインラインが「何が好きか」でなく「何が嫌いか」を語った作品であること。
②本作は出版社の意向により、ハインラインとしては不本意な形に書き改めさせられた作品であること。
なるほど。②はさほど気にならないが、①は実に腑に落ちる。そういうことか。ハインライン大先生は「夢みる乙女」が嫌いだったのか!
なお訳文の品質は旧訳と比べて特に良くも悪くもない(でも、だったらコストを掛けて新訳する必要はないのでは?)。
装丁は創元の新訳版にありがちな変更で、具象度の高いイラストに変わっている。鈴木康士という人(知らない人だ)のイラストだ。まあ悪くはない。個人的には旧訳版の新装版のカバーイラスト(ややぼんやりした画風のポディ(?)の胸像画)の方が好きだったが。