Amazonでサジェストされ、ピンと来るものがあったので読んでみた。
期待の完全上位互換。近年まれに見る秀作。私がこれまで抱いていた
(A)結局のところ日本人に本物のSFは書けない。
(B)多くのSFの舞台よりも年代が進んでしまった現代(しかも多くのSFが想像だにしなかった科学技術――コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク――が発達してしまった現代)において、もはや新たに面白くて正統的なSFは書けない。
という固定観念は完全に間違いであることが分かった。
褒めどころが多すぎて、一体どこから褒めればいいのか始末に困るが、本作の秀逸さの大要は次の3点だろう。
(1)娯楽SF――凸凹コンビの宇宙借金取り物語――として出来が良い。良いセンスと高い技巧の賜物である。彼らが毎話卑近なミッションをこなすにあたり、科学的(SF的)謎・工学的(SF的)課題が提示され、そして意外性のあるソリューションが示されるという、典型的にして鉄板のパターンは実に楽しく、安心して読める。
(2)ハード・サイエンス・フィクションとして出来が良い。特に、コンピュータ・ソフトウェア・ネットワークが発達し、作者がそれについて高度な知見を有した(読者もある程度の知見を共通認識とした)現代だからこそ、ロボット・仮想世界・人工知性、そして金融工学というテーマが従来のSFよりも格段に説得力をもって描かれていることに、深く感銘を受けた。上記(B)はまさに考え方が逆だった。
(3)上記(1)と(2)が高水準で両立されて、相乗効果を産んでいる。小さなテーマの消化の繰り返しにより大きなテーマが徐々に追求されていくという構造が秀逸である。
そして、フレーバーが実に良い。
『奇想天外』系とでも言おうか、70年代・80年代の(気取らない非早川書房系の)職人的SFの香りがある。あるいは早川書房系で言えば草上仁あたりが近いだろうか。思えば日本SFも捨てたものではない。批評家以外誰にも理解できない高踏的な自称“本格”SFと、SFの名を標榜する紙クズ以下の“ノベル”の両極端ばかりが目立つが、その狭間に、間違いなく本物は存在したし、今もするのだ! わたしは現代SF・日本SFに疎いのでこの宮内悠介という作家は初めて知ったが、全くもって侮れない。
書名の『スペース金融道 The Adventures of Galactic Loan Shark』に象徴される、あえての紋切り型もたまらない。キャラクター造形や細かなネタの数々も実に良い。
とにかく、近年まれに見る良い読書体験ができた。激賞せざるを得ない。