リチャード・M・イーラム。おそらく日本のSF読者の9割9分にとては無名の存在だろうが、私にとっては多分人生で3~4番目に読んだSF小説『宇宙の密航少年』の作者として思い出深い作家である。
さて、その邦訳作品が他にも若干冊あることは認知していたが、(題名や荒筋から判断して)そこまで頑張って入手を図るほどのモチベーションが上がらず、ここまで読まずに過ごして来た。それが国立国会図書館のデジタルコレクションの個人送信サービスで読めることに気付いたので読んでみたものである。
しかし結論から端的に言うとつまらなかった。見どころが何一つない。駄作。
日常系というコンセプトは『宇宙の密航少年』と同じだが、出来には雲泥の差がある。舞台設定にしろ、ガジェットにしろ、細かい日常描写にしろ全てが取って付けたようで魅力も新味もセンス・オブ・ワンダーも何もない。
滅亡した火星人の謎を解くという(取って付けたような)テーマも消化不良のまま終わっている。
ストーリーも行き当たりばったりで、主人公たちは2・30ページに一回は安易に生命の危機に襲われるが、緊迫感も何もなく、何の効果も上げていない。
登場人物にも全く魅力がない。『密航少年』だと幼年読者は活発な主人公と臆病な副主人公に容易に感情移入できただろうし、老船長やサーカスマニアの執事ら大人の登場人物たちも実に魅力があったのだが。
何を考えてこれを執筆し、出版し、翻訳したのか。子供騙しで子供が騙せると思うなよ。