久しぶりに(初めて?)読んだところなかなか興味深い作品だった上に、Web上に情報がほとんど無さそうだったのでレビュー。
【書誌情報】
題名:アンドロボット'99
著者:今日泊亜蘭
イラスト:武部本一郎(表紙絵)、杉本三明(挿絵)
出版社:金の星社
レーベル:少年少女21世紀のSF
巻号:6
出版年:1969年初版(1983年第12刷)
【背景】
「まえがき」によると、『中二時代』なる雑誌に連載したものをベースに、改稿及び約二倍になるよう書き足しをして長編にしたものだそうです。
【構成】
三部構成。
・地球対火星 p6-p57
・少年隊の奮闘 p57-p127
・火星の奇襲 p127-p210
となっています。
その後は本レーベルの通例に従い、作中のSF用語を解説する文責不明の「用語解説」(計2ページ)と、瀬川昌男による「解説」(計10ページ)が付いています。ただし例によって瀬川昌男の解説は作品の主題になった天体(本書だと火星)に関するスペックをひたすら列挙するようなもので、作品にはほとんど触れていません。
【梗概】
【梗概 > 地球対火星】
舞台は1999年。千代田第三中学校三年A組の少年少女――主人公の千葉ミキ夫、大食漢の伊藤のり雄、委員長の村上卓二、紅一点の渚ルミ江、忍術マニア“猿飛”宮崎ジュン――は学校対抗の競技会に出すロボットの作成に打ち込んでいた。しかし資金不足もあって出来は良くない。そんなある日、転校生の亜里佐ノノが精神力でこのロボットを操縦できることが判明する。どうやら適当な工作により偶然にもテレパシー能力が発現してしまったロボットと、天然のテレパシー能力者が出会ってしまったらしい。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
それを察知した謎の集団がノノを誘拐する。彼らは火星植民地のスパイだった。この時代、名ばかりの世界連邦はあったが旧来どおりの内紛に明け暮れる地球を見切り、火星植民地が独立を宣言した結果、地球と火星の間には熾烈な冷戦が繰り広げられていた。彼らは新兵器開発のためにテレパシー能力者とテレパシーロボットを求めていたのだ。
肝っ玉教師伊塚龍二の協力も得て、少年少女たちは奪回作戦を開始する。舞台は都内から、やがて日本アルプスへと飛躍する。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
【梗概 > 少年隊の奮闘】
日本アルプスで出会った伝法な少年ノダ・コータローを仲間に加え、彼らは敵と丁々発止のやり取りを繰り広げる。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
そして舞台は敵の本拠地ヒマラヤへ。少年少女の活躍、ポンコツロボットの健気な奮戦、伊塚先生の暗躍、火星側の穏健派の働きもあり、やがて騒動は平和的に決着し、地球対火星の争いも終息に向かうのだった。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
【梗概 > 火星の奇襲】
しかし、ある日地球は謎の宇宙船団の攻撃を受ける。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
それは和平を受け容れたはずの火星からの奇襲だった。地球の大都市は大打撃を受け、月は占領される。どういうことなのか? 誰もが訝しがる中、遥か昔に絶滅したはずの火星人からの宣戦布告が発布された。本物にしろ偽物にしろ、彼らは念波で火星植民者たちを洗脳し、今回の凶行を引き起こしたらしい。
機を逸した地球は、軍事力では火星を押し返せない。だが打つ手はあった。少年たちのロボットのテレパシー能力を禅の力で強化し、敵の首魁にぶつけるのだ。名僧、昌山禅師と国軍の協力を得た少年たちは月行きのミッションに挑戦し、知恵と勇気と幸運で、遂には火星人を打ち負かし、物語は大団円を迎える。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
【感想】
今日泊亜蘭節が炸裂する、『我が月は緑』のプロトタイプとも言うべき、子供に読ませておくには勿体ない秀作。ラテン語ベースの国際語(インテルリングア)、科学時代にも消え去らぬ大国のエゴに対する悲観主義、洗脳された科学的政権からの地球爆破予告、科学時代にも力を発揮する禅……。『光の塔』、『我が月は緑』のモチーフがほとんど全部出てくると言ってもよい。
タッカリゼーションのてんこ盛り具合も実に今日泊亜蘭だ。日本SFには暗いレビュアーにも、ノダ・コータロー(野田昌宏)、伊藤のり雄(伊藤典夫)、宮崎ジュン(宮崎惇)あたりはすぐ分かった。おそらく、気づいていないだけで他の登場人物の大半もSF関係者なのだろう。
痛快なSF活劇であり少年少女にも単純に楽しめるのと同時に、今にして読むと今日泊亜蘭の骨太な思想も伝わってくる。
というわけで良いところだけ着目すれば、「少年少女21世紀のSF」中で随一の傑作なのだが、残念なのが第三部の存在である。タイトルにもなっているポンコツロボット君にそれに相応しい見せ場を作る意味はあるし、禅(『光の塔』では修験道だったが)の力が活用されたりと、見所がないわけではないのだが、小説としては全くの蛇足と言わざるを得ない。大いに白けた。単に出てくるガジェットの良さを加点法で評価すればプラスになるが、SF小説として総合的に見ると大いにマイナスである。今日泊亜蘭について「偉大なるアマチュア」という評をどこかで見かけたが、こういう詰めの甘さは確かにそう思える。