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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 番外編その1

私にとっては驚くべき発見をしたのでついつい投稿してしまいました。読者にとって常識だったらすみません。

『宇宙人ビッグスの冒険』(SF少年文庫バージョン、初版)の巻末を見ていたら、興味深いことに気づいた。25~29巻の情報(予告?)がその後現実に刊行されたものと異なっているのである! 以下の写真を参照されたい(スキャナが無い野蛮人なので、写真のクリップで失礼)。
 
 
実際に出版された25~29巻との差異は次のとおり。
 
巻号予告(?)実際
25宇宙人,帰れ! M・レッサー/中尾 明訳百万の太陽 福島正実
26狂ったタイムマシン C・オリヴァー/内田庶訳宇宙の密航少年 R・イーラム
27中間宇宙 A・E・ナース/小尾芙佐訳凍った宇宙 パトリック・ムーア
28スペース・トンネル R・ハインライン/福島正実訳木星のラッキー・スター ポール・フレンチ
29恐怖の高潮 A・キー/亀山龍樹訳まぼろしの支配者 草川隆
 
察するに、翻訳や校正が間に合わなかった、もしくは交渉が決裂したか何かで、急遽差し替えをしたのではないだろうか。
 
以下、各巻に関する考察。
 
「宇宙人,帰れ! M・レッサー/中尾 明訳」は、適当にググった感じだとミルトン・レッサーの"Spacemen Go Home" (1960) の翻訳か? まさか『百万の太陽』よりつまらないSF小説がこの地球上にあるわけがないから、これが流れたのは実に残念だ。単にこの1冊の問題でなく、それによって福島正実の小説ばかり3冊も本叢書に入ってしまう(一番つまらないくせに最大勢力になってしまった)という大きな弊害も生じている。
 * * *
「狂ったタイムマシン C・オリヴァー/内田庶訳」は、時間ものということはチャド・オリヴァーの"Mists of Dawn" (1952) の翻訳か? 『地球の夜明け』(少年少女科学小説選集22、島朝夫訳、1956年)はすでに存在していただろうから新訳か? いずれにせよ、名手チャド・オリヴァーの作品が流れたのは残念だ。とは言えオリヴァーは14巻『時間と空間の冒険』に中編『この地球のどこかで』が入っているから致命傷は免れているし、叢書全体のバランスを考えると幼年向け作品をあまり減らすのも良くないので、これはこれで良かったかもしれない。
 * * *
「中間宇宙 A・E・ナース/小尾芙佐訳」は題名からストレートに察するにアラン・E・ナースの"The Universe Between" (1951) の翻訳だろう。本書と『凍った宇宙』、どっちが良かったのだろうか。前者を読んでいないため内容の良し悪しは比べられないが、作家の格はアラン・E・ナースが一枚上だろう。また、「少年少女宇宙科学冒険全集」ですでに邦訳されていた作品を再録するよりは、未訳作品の邦訳を一つ増やして欲しかった。このクラスの作家の作品は一度機会を逃すとそうそう翻訳されないのだから(実際未だに本書は邦訳なし)……訂正:『中間宇宙』はそれ以前にSFマガジン1970年8月号に訳載されていた模様。
 * * *
「スペース・トンネル R・ハインライン/福島正実訳」は明らかに"Tunnel in The Sky" (1955) の翻訳だろう。確か『ルナ・ゲートの彼方』の後書きで「とある児童向け選書に収録予定だったが中止された」旨、言及されていた記憶もある。ちょっと訂正:「(前略)本書はかつて、「空のトンネル」(原文ママ)という仮題で岩崎書店の少年SF文庫(原文ママ)の刊行予定にはいっていたものの、けっきょく出ずじまいだったそうで(後略)」(p.376)と言及されている。
『木星のラッキー・スター』も秀逸だが、"Tunnel in The Sky"と比べるとさすがに一枚落ちるし、すでに邦訳のある作品を再録するよりは未訳作品の邦訳を一つ増やして欲しかった。この機会を逃したがために、本書の邦訳は、実に1989年まで待たねばならなかったのだ。
さらに言うと、本ブログで度々非難しているとおり、本叢書に「ラッキー・スター」シリーズが2冊、逆順で、やけに離れて、収録されることになってしまったという弊害もある。
追記:ただし"Tunnel in The Sky"は終盤の展開がハード過ぎるのでローティーン読者にはトラウマになる懸念がある(少なくとも、私は耐えられない自信がある)。なので、そういう意味ではこの文庫に入らなかったのは良かったと個人的には思う。
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『恐怖の高潮 A・キー/亀山龍樹訳』は一瞬戸惑ったが、明らかにアレクザンダー・ケイの"The Incredible Tide" (1970) の翻訳だろう(言われてみれば"Key"を素直に読めば確かに「キー」だな。むしろなぜ「ケイ」表記が主流なんだろうか)。
また、岩崎書店でSF少年文庫とほぼ平行して刊行されていた「ジュニア・ベスト・ノベルズ」から、SF少年文庫完了直後の1974年に『残された人びと』(内田庶訳)が刊行されているあたり、ギリギリ間に合わなくて前者に収録できなかった作品を後者で再利用した節が窺える。
『残された人々』は読んだことがあるので分かるが、作品の読み応えや味わいは『まぼろしの支配者』と甲乙つけがたい。なのでこれに関しては差し替えられてしまっても悪くはなかったと思う(直後にリカバリも出来ているし)。

追記。よく見たら30巻も違う。題名だけが。実際は『夢みる宇宙人』のところ、このページでは『夢みるものの惑星』になっている。
個人的には後者の方が良い題名だと思うのだが、なぜ変えたのだろう。ハヤカワ版と重複しないように敢えて変えたのか、それとも児童にとっての理解しやすさを狙ったのか。

追記:関連記事=石泉社銀河書房の《少年少女科学小説選集》の元ネタを発見した。
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