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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第1回

カテゴリ単位で投稿しようと思っていたところ、1エントリが快適に読める長さをはるかに超えてしまいそうだと分かったので、やっぱり1冊単位で紹介する方針に変更します。
順番は、レビュアーが最初に読んだ順番か、評価が高い順番か、ランダムか……と色々考えたが結局すなおに巻号順に行くことにしました。というわけでSFロマン文庫第1巻、『第四惑星の反乱』の紹介です。レビュアーは叢書中ではおそらく中期ごろに読んだ作品で、結構好きな作品です。

【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:1
題名:第四惑星の反乱
原書:Revolt on Alpha C (1955)
著者:ロバート・シルヴァーバーグ
訳者:中尾明
イラストレーター:柳柊二
対象年齢:小学校高学年程度(※レビュアーによる見積)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:A-
小説としての良さ:A+
総合評価:A
 
【梗概】
人類が超光速飛行を実現し、近隣の恒星系にまで進出した時代。
軍人一家の出身で士官候補生の主人公ラリーは、二人の同期生とともに宇宙練習船カーデン号に乗り込み、アルファ・ケンタウリ第四惑星に飛んだ。士官学校での最後の研修なのである。
途中、船外活動中に機関夫オーヘアを突発事故から救う一幕や、同期生ハール(反乱の結果つぶされた木星植民地出身)と政治議論を戦わす一幕を経て、船はアルファ・ケンタウリに到着する。
しかし、アルファ・ケンタウリ第四惑星はまさに地球政府に対して反乱を起こしたところだった。カーデン号は、同星の四つの植民地のうち唯一地球寄りのシカゴ植民地に着陸した。
(※以下、ネタばれ回避のため白文字。)
植民地の実態を目の当たりにして、地球中心の価値観が揺らぐラリー。ハールとオーヘアは脱走して反乱軍に走る。船長の命令で他の植民地に潜入したラリーは強権的な地球のやり方にさらに疑念を育てていく。
そして通信士でもあるラリーは最終決断を迫られる。爆撃要請を本隊に送信するよう、船長から命令を受けたのである。命令に従えばアルファ・ケンタウリ第四惑星の植民者はすぐに皆殺しだろう。それでは木星の悲劇の二の舞だ。ラリーは苦悩の末、密かに通信機を破壊し、反乱軍に身を投じた。強権的な軍人だった父の言葉「宇宙パトロール軍士官は、なにごとも自分自身で決定をくだし、それをまもらなければならない」(フォア文庫版226pから引用)に、ある意味で従って。
(※以上、ネタばれ回避のため白文字。)
 
【作品成立の背景】
大物ロバート・シルヴァーバーグの処女作です。訳者による『解説=シルヴァーバーグについて』によると、18歳のSFファンだったころのシルヴァーバーグがとあるSFをくそみそに批判したところ、じゃあ自分で書いてみろと言われて書いたものらしいです。
 
【感想・批評】
とても完成度が高いです。適度の科学、適度の冒険が両立しておりSFとして理想的です。またストーリー、キャラクター、テーマもしっかりしておりジュブナイル小説としても秀逸です。天才ロバート・シルヴァーバーグが最初から完成した作家であったことが分かります。ジュブナイルですが、子供だましな執筆姿勢は全く見られません。
SF初心者への優しさ――超空間航法や惑星植民というものを丁寧に説明しているなど――も好きです。実際SF歴半年以内で、SF経験10冊~20冊程度だった私もすんなりと理解できた記憶があります。
そしてやはり本作の最良の美点は、今にして思うと主人公の人間的成長でしょう。教養小説とまで呼んでは言い過ぎかもしれませんが、エリート軍人家系に生まれ、何の疑問も持たずに士官候補生まで進んできた生硬な主人公が現実社会と向き合い、自分の頭で考え、そして自分の責任で大きな決断を下すという物語には胸が熱くなります。成長物語は本叢書には意外と少なく、そう呼べるのは3巻『わすれられた惑星』、11巻『宇宙怪獣ラモックス』くらい、そう呼べなくもないものとしては12巻『大氷河の生存者』、13巻『宇宙の勝利者』、16巻『タイム・カプセルの秘密』、24巻『消えた土星探検隊』くらいでしょうか。
 
敢えて冷静に欠点を探せば、SFの醍醐味の一つである革新性や、それによる知的興奮には欠けるかもしれませんが、鑑賞していて特に気にはなったことはありません。
中尾明の訳文も良好であり(※原文と見比べたわけではなく別の翻訳があるわけではないので絶対評価です)、柳柊二の力強く端正なイラストも作品と良く合っています。
 
というわけで叢書中ではかなり(客観的にも)評価が高く(個人的にも)好きな作品です。世間ではシルヴァーバーグと言えば“ニュー・シルヴァーバーグ”以降の作品が評価されていますが、私は本作や『大氷河の生存者』のような精緻でストレートなジュブナイルSFも評価されて然るべきかと思います。
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
前エントリにも述べたように、SF少年文庫/SFロマン文庫の中では珍しくフォア文庫に収録された数冊のうちの1冊です。入手難易度は意外と後者の方が低いかもしれません。レビュアーは2000年代に某新古書店チェーンの百均コーナーで本書のフォア文庫版を購入し、所有しています。ちなみに前者の厚さが206ページである(※国立国会図書館NDL ONLINEによる)のに対し、後者は234ページです。フォア文庫版のほうが若干判型が小さいためでしょう。
フォア文庫版はSF少年文庫/SFロマン文庫版とは表紙絵が異なっています。いま折り返しを確認したところ、「装丁 安野光雅」とありました。表紙絵だけ別の人に差し替えた理由は不明です。あと、これも今日気づいたのですがフォア文庫版では口絵がありません。挿絵は同じです。
 
2006年のSF名作コレクション版ではリストラされなかった20冊に入っており、『アルファCの反乱』に改題されています。個人的には、改題されたものの中では唯一従来版より良い題名かと思います。実物は見たことがないのですが、Web上でサムネイルを見る限りでは今井修司というイラストレーターの絵も中々洒脱でクォリティが高いです。レビュアー個人は本叢書のイラストは従来の写実系がベストと考えていますが、デフォルメ系というコンセプトを許容する観点であれば品質・作品との適合性ともに良好なイラストかと思います。
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