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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第2回

第2回は、SFロマン文庫第2巻『太陽系の侵入者』を紹介します。
レビュアーが本書を読んだのは、叢書中で比較的初期のほうだったと記憶しています。

【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:2
題名:太陽系の侵入者
原書:Lucky Starr and the Rings of Saturn (1958)
著者:ポール・フレンチ (Paul French)
訳者:塩谷太郎
イラストレーター:中山正美
対象年齢:小学校高学年~中学校前半程度(※レビュアーによる見解)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:A
文学としての良さ:B
娯楽小説としてのテクニカルな良さ:S-
叢書の構成要素として:C
初回印象:C
現在印象:A+
総合評価:B-
 
【梗概】
数十世紀後の未来。人類は、地球と、太陽系外植民星の二つに分かれて冷戦状態にあった。
そんなある日、敵陣営の最右翼であるシリウス星のスパイが地球の重要機密を盗んで宇宙船で逃走した。宇宙英雄デイヴィッド・スターは相棒ビッグマンおよび一人のゲストとともに愛機を駆り、スパイを追うが、土星系で惜しくも取り逃がしてしまう。
(※ネタバレ回避のため、以下は白文字。)
それどころか地球政府が長らく放置していた土星系にはシリウスの秘密基地が作られており、彼らは逆に拿捕されそうになる。ゲストをミマスに降ろし、再度離陸するスターとビッグマンだったが、結局は拿捕されてしまう。高慢で卑劣で、ロボット好きなシリウス人たち。二人はその隙を突き、知恵と勇気と腕っ節を駆使して、辛くも内惑星へ脱出する。
だが後日、シリウス政府は宇宙国際法廷で二人を訴える。彼らは土星系を自国領土だと主張し、二人を自国領土への侵入者、スパイと断じたのだ。シリウス人は言う。「土星系は地球政府が長らく放置していた。それを開発し、植民して何が悪い。領土は軌道ではなく実績で決まるのだ」と。
地球の旗色は悪い。しかしスターが起死回生の一言を発する。「領土が軌道でなく実績で決まるなら、それこそ当方の行動は正当である。我々はミマスに植民するため土星系を訪れたのだ。植民者は今もミマスに居住している。シリウス人がタイタンを実効支配しているからと言って、ミマスに植民して何が悪いのか?」と。
こうしてシリウスの陰謀は防がれ、物語は大団円を迎える。
(※ネタバレ回避のため、以上は白文字。)
 
【作品の背景】
アイザック・アシモフが別名ポール・フレンチで執筆した「ラッキー・スター」シリーズ(全6作)の第6作です。
同シリーズの第5作も本叢書に入っています。第28巻の『木星のラッキー・スター』がそれです。
 
【作品の背景 > ラッキー・スター・シリーズ】
アシモフは超ビッグ・ネームですが本シリーズについては知らない方も多いと思いますのでごく簡単に解説を。→ ラッキー・スター・シリーズとは
 
【感想・評価】
緻密で秀逸で、知的な宇宙活劇です。ミステリ作家としての腕もうまく発揮されています。ジュブナイルだからと言って手は抜いていない気配も窺えます。アシモフの良い面ばかりが奇跡的に十全に発露した作品と言えるでしょう。
また、アシモフ・ファンの観点からは、本作はどうやら「スーザン・キャルヴィンもの」と「イライジャ・ベイリもの」のちょうど真ん中の時期を舞台にしているように察せられ、とても興味深く読めます。シリーズ第6作にして初めて、シリウス星に対して戦術的のみならず戦略的な勝利を得られたカタルシスもあります。
訳もイラストももちろん良質です。
今にして総合すると、作品自体は、レビュアー個人にとってはアイザック・アシモフの長編の中では最も好きな作品の一つと言っても良いほどです。
 
しかしながら、初めて読んだ時にはさっぱり腑に落ちず、「これまで読んできた中では、中の下くらいかな」という印象でした。理由は次の4点です。
(1) SFを(と言うかそれ以前に小説を)読みなれていなかった10歳の自分には、アシモフのやや生硬とも言える文章は理解しづらかった。
(2) 「ロボット三原則」や「地球人とスペーサーの対立」といったアシモフ的背景を知らず、また上記のように読解力も無く読んだため、作品世界に入り込めなかった。
(3) シリーズ最終巻を最初に読んでしまったため、読解力の無さと相まって全体的に理解しづらかった。
(4) そもそも知的スペースオペラとでも言うべきコンセプトが、当時の自分の好みから全く外れていた。
 
半分はレビュアー自身のせいもありますが、半分は編集部側にも責任があると思います。なぜシリーズの5作目と6作目だけを、逆順で、離して、叢書に収録したのでしょうか? しかも、シリーズだと明示もせずに。理解に苦しみます。心ある編集部が2冊選ぶならシリーズの1と2でしょうし、仮に5と6にせざるを得ない事情があったなら正順でくっつけてシリーズものだと銘打った上で、なおかつ巻頭に1ページか2ページを費やして「これまでの流れ」とか「本シリーズについて」みたいのを入れるべきではないでしょうか。ラッキー・スター・シリーズの取り扱いは、完璧に近い本叢書の構成における、数少ない欠点だと思います。
というわけで、作品自体は秀逸ですが取り扱い不備により、SFロマン文庫という叢書の第2巻としての評価は、個人的にも客観的にも一段階半は下がっています。
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫が初出であり、SFロマン文庫にてリプリントされました。
SF名作コレクションには再録されていません。『木星のラッキー・スター』のほうは再録されているのですが。
あと、角川文庫SFジュブナイルには同じ原作の邦訳が『天狼星(シリウス)の侵略(副題:宇宙監視員ラッキー・スター①)』として収録されていますが、(今回本稿を書くために調べて気づいたのですが)訳者が中尾明となっており、岩崎書店版のリプリントではなく新訳のようです。角川版も読んだことがある――というか持っている――のに、これまで気づきませんでした。あと、角川も最終巻が①と銘打たれているという謎采配ですね。

【追記:逆順の謎について】
少しだけ自己解決しました。SF少年文庫は一部の巻は何かの都合で急遽差し替えを行ったようです。その結果のようです。→SFロマン文庫を語る 番外編その1
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