正月休みを機に久しぶりに再読。船から落ちて千島列島の無人島に打ち上げられ、数十日間を生き抜いたソ連の少年を主人公にしたドキュメンタリー文学である。
やはりかなりの秀作だ。単に冒険談として面白いだけではなく、華美で贅沢で浪費的な現代社会の文明生活に対する批判性も的を射ている。
さて、久しぶりに読んで新たに気づいたことをいくつか。
・『神秘の島』への当たりが強い。可愛さ余って憎さ百倍なのだろうが、ヴェルヌ作品はファンタジーなのであまり批判してくれるな。あと、『神秘の島』でアメリカ人たちが2つの木片を擦り合わせて火を起こそうとしたのは完璧超人サイラス・スミスと合流できていなかった時点のことなので、これをサイラス・スミス批判の材料にするのは不当である。
・ソ連の実情が(どれだけ本当かはともかくとして)書かれているのが興味深い。ソ連の実生活は『アンセム』と『動物農場』と『1984年』と『ギヴァー』を足して4で割ったより更に奇だと想像していたのだが、「ひとっ走りトマトを1kg買って」きたり「貽貝をたらふく食べて」みたり、父親が「飛行機のおもちゃ」や「外国製ボールペン」を主人公に与えていたり、時期や地域や人によっては結構自由もあり物資も欠乏していないまともな生活ができていたのかもしれない。
・主人公の父親が実にハインライネスクで興味深い人物だ。しかし父親から主人公への評価が厳し過ぎやしまいか。主人公が亜寒帯の孤島で生き残れたのは父親の薫陶と本人の資質・努力の証明だと思う(同じ条件で生き残れる少年が近代以降の文明国にどれだけいるだろうか?)ので、誇っても良いと思う。