みすず書房 2007年
亀山龍樹、福島正実、厚木淳、早川清……戦後SF翻訳出版界を支えたレジェンドたち――しかし(福島のごく一面を除いて)語られることの無かった翻訳家・編集者・出版者たちの列伝である。帯の煽り文「傑物たちの列伝=レクイエム」は伊達ではない。まさにこういう本を求めていた(*1)。唯一無二の卓越した書物であり、実に興味深く読めた(SFとはあまり関係ない人物も少なくはないが、それはそれで興味深く読めた)。
亀山龍樹……何度か本ブログでも言及して来た通り好きな翻訳者であるが、これまではわずかの断片的な情報しか得ていなかった。曲がりなりにも一章を設けて、その人となりを含めて語られているのは実にありがたく、噛みしめながら読んだ。この手の人々はやはり若いころに小説家を目指してるんだなあ(この人の、むしろ創作にも近いリライト力はそこに由来しているのかと合点が行った)。そして「児童文学界における意訳・リライト排除運動」なる謎のムーブメント(現代人の私からすると全く正当性が理解できない)によって晩年は不遇だったと知った。甚だ遺憾に思う。
厚木淳……東の早川に対する西の創元――その創設者厚木淳の名は諸般の事情もあろうがこれまであまりも語られて来なかった。私が唯一知っているのは
『SFイズム』に載ったというインタビュー記事くらいのもので、これは創元推理文庫SF部門のコンセプトや黎明期をご本尊が語るという意味では極めて貴重な記事であったが厚木淳自身についてはほとんど触れられていなかった。短いながらも一章を設けてこの人自身にフィーチャーしてくれて本当にありがたい。
しかしこれほどの本を読んでしまうと欲が出てくる。語られるべき人物はもっといくらでもいるのではないか。宮田昇(内田庶)の交友関係が広くて深いことは分かるが、それに留まらない、もっと若い世代も含めた網羅的な列伝が読みたくなる。誰か書いてくれないだろうか。
*1 日本においてSFを語るうえで、それが海外からの輸入を主とする性質上翻訳家および編集者というファクターは極めて重要だと考える。しかしこれまであまりにも語られずにいた――あるいは彼ら自身があまりにも自分たちに関して沈黙していた――ように思える。