以前読んだ『ファンタージエン 秘密の図書館』と同様、『はてしない物語』の準公式(?)スピンオフの一つ。たまたま図書館で見かけてページを開いてみたところ「サイーデ」とか「岩喰い男」とか良さそうなキーワードがちらほら出てくることに気付き、精読してみるに至った。
で、原典とほぼ同時期を舞台にするという意味では期待どおりだった。
しかし全く面白くはなかった。その根本的理由をずばり分析すると、スピンオフ小説/パスティーシュ小説に必要不可欠な三本の柱
・原典に関する深い知識
・原典への深いリスペクト
・前二者に基づく着想を具現化する技巧
を全て欠いているのが原因であろう。
……いや、それ以前の問題か。スピンオフ小説/パスティーシュ小説とは、原典で描き切られなかった何かを補完したり発展させたりする、すなわち「原典に貢献する」のが主旨である。しかしながら本作は自分の安易で勝手な思想(と呼ぶ価値も無かろうが)を語るために「原典を自分に貢献させ」ようとしているのである。根本的に間違っているのだ。しかも自分のちんけな技能でそれに成功していると思い込んでいるのが透けて見えるのが最高に愚かだ。
例えば「ケンフラー平原」の「シリドム」の「機織り女」の娘を主人公にしているのが二つの理由から良くない。第一に、原典にちらりとすら出て来ないぽっと出の種族(*1)を中心にされても「メアリー・スー」にしか見えず、白ける。第二に、主人公がその一族の伝統に馴染めない悩める反抗的な少女であることで、あまりにも安易なテーマがあまりにも容易に透けて見えるのが白ける。
そして猫は「既存の価値観に縛られない本当のアタシ」のメタファーであることがあまりにも見え見えで白ける。
あるいは副主人公で唐代(?)の錬金術師、閻道恣(イェン・タオツー)。東洋人を出しておけばエキゾシズムが高まるだろうという底の浅い意図が透けて見える。東洋人から見ればお粗末な人物像で白けるばかりだし、作品における役割が結局不明確なまま終わる(たぶん初めから何も考えていなかったのであろう)のもよろしくない。
それ以外の登場人物にしろ、プロットにしろストーリーにしろ、全てがお粗末。
これを駄作と言わずして何を駄作と言おうか。こうして見ると『秘密の図書館』は技巧が少々不足した結果の失敗作ではあったかもしれないが、主旨を取り違えるような根本的な誤りは犯していないだけまだまだ見どころはあったと言えよう。
*1 いちおう原典を再確認した結果発見できなかったのだが、見落としだったら申し訳ない。