ヴェルヌの『氷のスフィンクス』を久しぶりに再読し始めたのだが、その原典たる『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』の記憶がそもそもあやふやだと気付いたので、いったん中断してこちらを先に再読することにした。
創元推理文庫の「ポオ小説全集」は少年時代に正価で購入している(*0)のだが、わけあって直ちにアクセス可能な場所には無かった(*1)ため、国会図書館デジタルコレクションを漁ってみたところ春秋社(*2)の「エドガア・アラン・ポオ全集」が閲覧可能であったため読んでみた(*3)。第三巻に収録。
記憶していた以上に面白い。この圧倒的な勢い、濃厚なアトモスフィア、そして原SFと呼ぶにふさわしいセンス・オブ・ワンダー。やはりポオは天才だ。ジュール・ヴェルヌが本作に惚れ込んで続編小説を執筆するに至ったのもむしろ当然である。
この春秋社版は谷崎精二という人(*4)の翻訳で、創元の初版とはほぼ同時期の本であるが訳文はやや古く生硬なように感じる。また固有名詞や専門用語等の訳語に少々癖がある。悪い翻訳とまでは言わないし刷り込み効果かもしれないが、創元版より一枚劣るように思える。
*0 どうせ週に1・2回は図書館に通っていたのだから、貧弱な小遣いを割いてわざわざ購入した意図が今にして思うと理解しがたい。
*1 少年時代の投資をここぞという時に無駄にしてしまった。
*2 (無知で申し訳ないが)聞いたことがない出版社だが、現在も存続している学術系の出版社のようだ。
*3 法外な重税のささやかな見返りだ。
*4 (無知で申し訳ないが)聞いたことがない人物だが、巻末によると早稲田大学の名誉教授らしい。