エドモンド・ハミルトンがあるメタSF中でこんなようなことを述べていた。いわく、「面白い空想小説を執筆するとは、要するに面白い空想世界を創造することだ」と。これは至言だと思う。
そして読者目線で良い空想小説の条件を一つ付け加えるならば、「良い空想世界を創造しておきながら、その世界を描き切らないこと」だと思う。(逆に、書けば書くほど底の浅さを露呈してしまった作品は枚挙に暇がない……)
つまり空想小説が秀逸であればあるほど、構造的に二次創作欲を掻き立てるわけだ。
というわけで本書である。若き日のコレアンダー氏を主人公に据え、『はてしない物語』の前日談を描くという構想は悪くない。いやむしろ待ち望んでいたものだと言っても過言ではない。実際序盤の出来はかなり良く、私の期待感はいやが上にも高まった。
しかし結局は今一つだった。
細かいエピソードの一つ一つに光るものはあるが、全体としては凡庸。原典へのリスペクトは感じるが、ただただ原典に沿うだけで自分なりの創造性が感じられない。
主人公に二十代の青年を登用しているのが全く活かされておらず、むしろ枷になっている。取って付けたように女に惚れる様が描かれるがストーリー上何の意味ももたらしていない。そもそも本作は誰を対象にしているのか? 普通に児童なのか? それともかつて『はてしない物語』を愛読していた成人なのか? どうもはっきりせず中途半端だ。
中盤以降で主たるテーマの一つ(?)としてしばしば言及される「ファンタージエンの二面性」理論もどうも面白くない。不可思議な理論で物語に深みを出そうとしているつもりなのだろうが、中学生くらいが考えた屁理屈としか思えず白けるばかりである。
アマチュアのファン・フィクションとしてなら許せるが、プロの作品としては合格水準とは言い難い。序盤が良かっただけに失望の大きい読書体験だった。