訳:小川超
学習研究社 学研世界名作シリーズ(16) 1976年
先日の『新ロビンソン物語』を発端とし、ロビンソナーデ読書欲が収まらないので久しぶりに本作を再読してみた。
これを機に調べてみたところ数種類の訳書が存在し、幸いにして国立国会図書館デジタルコレクションで読めるものも複数あることが分かった。しかしどれも好みに合わなかった(*1)ことから、結局以前読んだことのある学研版をリアル図書館で借りてきたわけである。
で、なかなか面白かった。現代人の成人から見れば稚拙で素朴かもしれないが、やはり古典として愛され続ける作品には特有のパワーがある。
ところで少年時代は気付かなかった(もしくは気付いていたかもしれないがその記憶を保持していなかった)点をいくつか述べたい。
・語り手から次男エルンストへの当たりが強い。気持ちは分からないでもないし、利己的な怠け者の屁理屈屋をビシバシ鍛え直す方向性にも賛同するが、もっと寛容さと愛情を持って取り組んでほしい。
・『新ロビンソン物語』と同様にドイツ語圏特有の価値観――勤勉、誠実、教育性――に満ちているのが興味深い。
・有用な動植物があまりにも都合よくポンポンと手に入り過ぎる。まあ、目くじらを立てるのも大人げないかもしれないが。
・舞台設定が随分いい加減である。例えば登場する野生の陸生動物を挙げると、カピバラ(南米)、シマウマ(アフリカ)、トラ(アジア)、「ダチョウ」(本当にダチョウならアフリカ、エミューならオーストラリア、レアなら南米)、象(アジア象なら東南アジア、アフリカ象ならアフリカ)、ハイエナ(アフリカ)、ライオン(アフリカ)、カバ(アフリカ)が一つの島に生息しているという矛盾が見られる。一種や二種なら「話者の間違い」か「人為分布」で済ませられるかもしれないが、これは度が過ぎる。
*1 悪い意味で低年齢向け過ぎるか古すぎるか、画質が悪いか。そして岩波文庫版は上巻しか閲覧できないのが難点だ。