定期的に読みたくなり、おそらく十数回目に再読した。やはり面白い。
私がひねくれ者であるせいかもしれないが、モーリス・ルブランの最上の作品はルパンものの中ではなく単発ものの中にあるように思う。その一つが本作である。本作や『綱渡りのドロテ』では、ルパンもの(全部読んでいるわけではないが)において散発的・痕跡的にのみ発現している面白さが完全な形で開花しているように思える。
特にこの『バルタザールのとっぴな生活』では他の作品には見られないユーモアと寓話性が良い効果を上げている。また、可憐で献身的なヒロイン、コロカントが実に魅力的だ。このキャラクターが存在して初めて、物語に説得力が生じたと言っても過言ではあるまい。
異訳としては創元推理文庫版の『バルタザールの風変わりな毎日』があり、訳文にさしたる優劣はないが、私としては偕成社アルセーヌ=ルパン全集の『バルタザールのとっぴな生活』の方を推したい。決定的な理由は、偕成社版には優れた挿絵が付いていることである。作風にぴたりと合致したイラスト(鉛筆画と言うのだろうか)で、挿絵が本文を、本文が挿絵を、相互に高めている。挿絵とはこうあるべきだ。奥付によると田中槇子という人物が描いているようだ。
2023/06/26追記 とても教育的なコミカライズ
『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』のお陰でルパンものの株も上がりました。