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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

アースシー世界の言語と文字について

【梗概】


アースシー世界の諸語は孤立語であり、文字は表語文字なのではないかと思った。



【経緯】


『ドラゴンフライ』巻末の「アースシー解説」を読んでいて(小説よりもむしろ興味深いこの補遺が本書に収録されていることを実は今さら認識した。少なくとも過去二十年間で二度や三度は読んでいるはずなのだが全く記憶になかった)、色々思考が巡った。今回はそのうち言語と文字について述べたい。


まずは前提を。



【前提/言語】


アースシー世界にはいくつかの言語があることが「アースシー解説」中や本編中で語られている。
  • 現代語
    • ハード語。多くの登場人物の母語。
    • カルガド語。カルガド帝国の言語。
    • オスキル語。本編中では判然としなかったが、「アースシー解説」にて、オスキル、ローム、ボースで使用されていることが明言され、カルガド語との近縁性が示唆されている。
    • 『さいはての島へ』序盤でのアレンとハイタカの会話からすると、エンラッド+エンレイド諸島の言語も非ハード語なのかもしれない(少なくとも標準的なハード語にはない俚言がある模様)。なお、ここからは作中唯一と思われる文法事項が読み取れる。すなわち「アレン」が「剣」、「アレンデク」が「小さい剣」であることから、「~デク」は「小さい~」なのであろう。これがドイツ語の「-chen」や「-lein」のような指小辞なのか、それともこの言語が後置形容な言語であって「小さい」という形容詞が後ろに付いているだけなのかは分からないが。そして、いずれにしても語幹の形は変化していないことも注目に値する。
  • 古典語:魔法使いが習得する「真の言葉」または「太古の言葉」。本編中でも断片的に語られていたことだが、「アースシー解説」にて、少なくともハード語、オスキル語、カルガド語は「どれもみな、太古のことばを遠い祖先としている」ことが明言されている。


【前提/文字】


本編中では今一つ判然としていなかったような気がするが、「アースシー解説」にて、文字体系には二種類があることが明言された。真正神聖文字と疑似神聖文字である。前者は前者は古典語用、後者は現代語用。



【仮説】


以上を踏まえて、仮説と言っては格好を付け過ぎだろうが、ふと思ったことが二つある。

  • アースシーの諸語は孤立語なのではないか?
  • 真正神聖文字と疑似神聖文字はいずれも漢字のような表語文字なのではないか?


【仮説の根拠1】


本編中では暗示されるに留まっていたことだが、神聖文字は数十字とかではなく無数にあることが強く示唆されている点。


「アースシー解説」でハード語疑似神聖文字について「文字の習得は学校教育の重点項目のひとつであり、アーキペラゴ人のほとんどは入学から卒業までの数年で、数百から数千におよぶ文字を学んで身につけてしまう」とある。これはまさに日本の学校教育における常用漢字を思わせるではないか。


そして真正神聖文字については「いわゆる「ハード神聖文字六百字」はふつうのことばを書くのに使うハード語擬似神聖文字ではなく、ふつうの言語のなかにあって、力をなくしてしまった、「安全」な名前に与えられた真正神聖文字である。(中略)魔法使いを目ざす学生のなかでも野心ある者たちは「高等神聖文字」や「エアの神聖文字」、その他多くの神聖文字を次つぎと勉強していく。太古のことばに限りがないなら、神聖文字とて同じだからである。」とある。つまり無数にあるという意味だと思われる。


無数にある→表音文字とは考えづらい→なら表語文字ではないか、という思考。



【仮説の根拠2】


表語性を強く示唆する記述。例えば、本編中でも触れられていた「ピル」「シムン」「シフル」。「アースシー解説」でもこの三文字を例として、次のように述べられている。「真正神聖文字はひとつひとつの文字が太古のことばに置きかえられて、意味をもつ。あるいはそれが暗示するもののひとつひとつはハード語に置きかえられると言うべきか。ふだんよく使われる神聖文字には(略)」。



【仮説の根拠3】


カルガドがハード語疑似神聖文字をカスタムして取り入れたという記述。この記述からは、日本語における漢字受容のような、言語体系が全く異なるがゆえの無理のあるカスタム(漢文訓読・返読)や大きなカスタム(漢字カナ交じり文)ではなく、小さなカスタムしか伴わない受容であるようなニュアンスを感じる。ハード語疑似神聖文字が表語文字であり、なおかつハード語とカルガド語が同類型の言語だと考えると平仄が合う。



【仮説のロジック】


以上の根拠から、どうも真正神聖文字・疑似神聖文字はともに表語文字くさい。


そして表語文字と相性の良い言語と言えば孤立語だろう、という安直な直感。




2021/02/15追記。


【ハード語の屈折性について】


「アースシー解説」の「歴史」の「起源」に「たしかにセゴイという名まえは古代ハード語のセオグという動詞から来た、れっきとした主格語形であって、セオグとは作るとか形作る、意図的に存在あらしめる、という意味である。同じ語根から名詞のエセゲ(想像力、息、詩の意)が来る。」という記述があることに気付いた。よって上記の仮説はかなり怪しくなった。どうも古代ハード語には屈折性があるようだ。



【カルガド語の"at"について】


カルガド語の"at"について。カレゴ・アト、アチュアン、アトニニ、ハートハーの英語原文中での綴りが"Karego-At"、"Atuan"、"Atnini"、"Hur-at-Hur"であることを知った。これはもう、誰がどう考えても、この四つの地名からは"at"という形態素を見出さざるを得ない。しかし意味は皆目見当が付かないのが残念なところだ。




2021/02/16追記。


【「カルガド」について】


「カルガド」の英語原文中での綴りは"Kargad"であるが、これは"Kargad Lands"のように地名を言う場合にのみ使われる形のようだ。本編英語原文や英語サイトでの記述からすると"Karg"が語幹であり、

  • Karg カルガド人(名・単数)。
  • Kargs カルガド人(名・複数)。
  • Kargish カルガド語(名)・カルガドの(形)・カルガド語の(形)
  • Kargad カルガド国の(形)・カルガド地方の(形)

だと読み取れる。つまり"-ad"はあくまで英語においてKargという固有名詞の語幹を地名的な形容詞にするための接尾辞である模様。あまり見ない接尾辞だが、これのことだと見なして良いのだろうか。


そうだとすると日本語版で「カルガド人」とか「カルガド語」と訳してあるのは正しくないと言えよう(おそらく意図的なのではあろうが)。「カルグ人」とか「カルグ語」とでもすべきかもしれない。地名も「カルガド帝国」ではなく「カルグ帝国」にしても罰は当たらないだろう。何か締まらないが。


とにかくアースシーの事物、特に言語について検討する際には英語・日本語という二つのフィルタが掛かっていることを念頭に置くべきだと悟った。

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