古典的名作としての名声は認知しつつも長年の間(ごく一部を散発的に立ち読み等で読んだのを除き)読むのを怠っていた。今回、電子書籍版を認知したのを機に初めて通読するに至った。eBookJapanだと
・長編探偵漫画 鉄人28号(全7冊)
・カッパ・コミクス版 鉄人28号(全20冊)
・鉄人28号 原作完全版(全24冊)
の三種が取り扱われているが、調べたところやはり「原作完全版」が全きものであると思われたためこれを選択した。
良い漫画だった。楽しく読めた。
本作の良さは一言でいえば「分を弁えていること」であろう。同時代の『鉄腕アトム』と比較すると分かりやすい。
・SFたることを追及し、前面に押し出した『アトム』に対し、(横山光輝の別の漫画のキャッチコピーを使うならば)「科学スリラー」に徹している『28号』。
・未来を描いた『アトム』に対し、現代(むしろ鉄人28号自体は過去の遺産)を描いた『28号』。
・テーマ性(多くの場合、人間の本質が悪であることに対する絶望)を重視した『アトム』に対し、むしろテーマ性を持たないことを心掛けて(いるように思われ)エンターテイメントに徹した『28号』。
・きわめて高い画力・デザイン力で作画された『アトム』に対し、その才覚の範囲内でほどほどの作画コストで描かれた『28号』。
これらの方針全てが絶妙にはまり、当時の少年向けエンターテイメント漫画としては秀逸な仕上がりが得られている。また、(矛盾するようだが)エンターテイメントに徹しているからこそ、ただのエンターテイメントに収まらない独特の味わい(→
ベスターのE・E・スミス理論)が実現しているのも美点である。本作が現代まで古典として生き残っているのもこの味わいゆえのことであろう。
細かい不満を挙げようと思えばいくらでも挙げられる(*1)が、それは無粋であり後知恵に過ぎないであろう。
*1 例えば28号を再建した謎の男が気になる。物語における最重要人物(*2)だと思ったら何の説明もなく消えてしまった。彼は何者だったのか? 『敷島邸でであったギャングと怪人』の回で描画された素顔からすると敷島博士より若く見えるが、博士とは同僚だったのだろうか? PX団とは敵対していたはずだが、いつの間にいかなる成り行きで手を組んだのか? 『第二計画』の回を最後に一切登場しなくなるが、どこへ消えたのだろうか? この回の乱戦で死亡したのか、その後PX団と仲違いして消されたか、あるいはPX団自体が出てこなくなる前の最後の回『PX団支部長の最後』で潜水艦ごと海の藻屑になったのだろうか…?
*2 よく「鉄人28号を作ったのは敷島博士だ」という言説を聞くが、それは不正確だ。オリジナル版は乗鞍岳の研究チームが作ったのだし(敷島博士が中心的人物の一人ではあったのだろうが…)、再建版は謎の男が(敷島博士らの設計に基づいて)一人で作ったのだ。また、オリジナル版は未完成に終わったが再建版は完成していることからしても、謎の男の寄与は敷島博士に劣らず大きいと言うべきではないだろうか。