蔵書より。特に理由はないが久しぶりに再読。
かなり面白い。カール・ヘルベルト・シェールと言えば創元の『地球人捕虜収容所』、『地底のエリート』あたりが白眉であり早川の作品はどれも二線級という認識だったが、私の目が曇っていた。本書も白眉である。
良い点としては登場人物、舞台、ガジェットが緻密に描かれており骨太なリアル感がある。また、プロットが優れている。文武両道の超人的主人公の人物像にも魅力がある。
しかし少々悪い点にも気付いた。翻訳が悪いのか原文が悪いのか、どうも文章がぎこちなく感じる。地の文もセリフも両方そうだ。特に後半で顕著だ。それさえなければ最高の作品だったのだが、それでもなお(邦訳のある)ドイツSFの中では屈指の秀逸な作品と言えるだろう。
確か北原尚彦がどこかでこんなこと書いていた(気がする)――《ペリー・ローダン》シリーズに人手を取られることさえなければ、ドイツSF、特にシェールはもっと多くの良作を生み出せたのではないか――と。これまでこの主張があまりピンと来ていなかったが、今回本書を読んでまさにその通りだと痛感した。惜しまれる。
追記 これまで気に留めていなかったが、巻末の解説の著者の「H・K」って誰だろう? 早川清か? そうだとすると(つい先日『
新編 戦後翻訳風雲録』のお陰で、ただの経営者には留まらない多層的な人物だと認知したところだが)ドイツSF界にも知見があるとはなおさら興味深い人物だ。