少年時代(学生時代?)に集英社文庫版をお座なりに1・2回読んだきり永らく顧みずにいたが、思うところあってどえらく久しぶりに再読。今回は国会図書館デジタルコレクションにてパシフィカ社の「海と空の大ロマン」版(*1)を閲覧。
少年時代は本作を何の見所もない駄作だと感じていたところ、部分的には上方修正するに至った。
まず、『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』の完結編を書こうというその意気や良し。独特の緊迫感や雰囲気もある。また、「南極」というテーマを水準程度には描けている。うまく行けばジュール・ヴェルヌの数多い作品の中でも独自の地位を占める傑作になっていたかもしれない。
しかしやはり欠点も多い。長大な割に内容が薄く、テンポが悪く冗漫である。また登場人物の魅力が薄い。ある意味リアルなのかもしれないが、これと言った特色のあるキャラクターが一人もいない(あえて言えばダーク・ピーターズくらいか)。
そして最も致命的なのが、ポオがファンタジックに描いたツァラール島やポオが敢えてぼやかして描いた極南地方を実につまらなく再解釈してつまらなく描いていることだ(*2)。これを単純に才能や技術の欠如と見るべきか、(まさかと思うが)原典や先達に対するリスペクトの不足、自己に対する過信と見るべきか……。
追記 原注にて、本作は『海底二万海里』と同じ世界であることが述べられていることに気付いた。つまり『グラント船長の子供たち』、『海底二万海里』、『神秘の島』の三部作は実は四部作だったわけだ!
*1 両者は訳者が同じなので、集英社文庫版はパシフィカ版のリプリントのようだと今回ようやく気付いた。
*2 その最たるものが「氷のスフィンクス」だ。これさえ無ければまだ失敗作で済んだところ、この駄目押しで本作は駄作に成り果てたと言っても過言ではなかろう。