蔵書より、かなり久しぶりに再読。たぶん最初に読んだのは高校生のころで、それ以前に創元推理文庫SF部門の本の巻末で存在は認知していたものの知らない作家だし題名からも魅力を感じず積極的に読む努力をしていなかったところ、古本屋で適価な現物を見かけたので買って読んだものと記憶している(*1)。さほど期待もしていなかったが、独特の雰囲気が意外と気に入った記憶がある。その後しばしば復習していたが、いつの間にかそのルーチンが途切れていた。今回は本棚を眺めていて久しぶりにモチベーションが上がったので手に取ってみたものである。
記憶していたとおり、独自性あふれる秀作だった。「死後の世界」テーマのSFはショートショートにならいくらでもあるだろうが、長編SFにはありそうでほとんどない。長編一本をもたせるほど大きなネタに膨らませるのが難しいのかもしれない。本作の独自性と秀逸さはまずそこにある。また、小説としても読ませる。主人公ジェイ・オーリンスンを始めとした等身大の登場人物たちには奇妙なシンパシーを感じる。
邦題が垢抜けないのがやや難点とも言える。しかしこれを原題のダブル・ミーニング(たぶん慣用句としての「Never Say Die」と、作中で示される生と死の真実を掛けている)を保ったまま端的で詩的な日本語にするのは困難の極みだろうから、特に原題にこだわらない邦題を一から作る方針は現実的であり、また経験上これより悪い邦題はいくらでもあり得ろうから、まあこの程度で仕方あるまい。
このロバート・グロスバックという作家、SFプロパーの人ではないようだが実に(かえって)冴えている。ISFDBによると本書の訳者後書きでは触れられていない作品も何編かあるようだ。誰か翻訳してくれないだろうか。
*1 思えばあのころがSF者として純粋な生き方ができていた最後の時期だったかもしれない。心にイノセントさがけっこう残っていたこと、経済力・行動力の向上、そしてSFという大陸に未開拓領域がまだしも残っていたことが相乗効果を生んでいたように思える。