ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。
一種の“刷り込み”かもしれないが、わたしにとって、SF個人短編集のオールタイム・ベスト5には入る1冊。定期的に読みたくなるので、今日もまた何十回(何百回?)目に再読。
やはり文句なし。鬼才シェクリイの作品の中でも特に油が乗った秀作が多い。抜粋で紹介していこう。
●地球への巡礼の旅
内容:未来。“非実用的なるもの”のメッカ地球。素朴な農業惑星から、一人の男が地球にやってきた。男の求めているものは、ずばり“恋”。男は客引きに言われるがままにとあるビルに足を踏み入れるが――
感想・解説:表題作にふさわしい傑作。寓話としても、短編小説としても、SFとしても実に完成度が高い。ユーモアと苦味の両立具合も見事だ。そして単にテクニックが卓越しているのみならず、シェクリイ独自の味が実に濃く、良い。何でも商売にしてしまう酷薄で現金な未来社会というモチーフはシェクリイのSF作品ではしばしば見られるが、わたしは本作が一番好きだ。
●地球人の善と悪
内容:地球からの探検隊がある惑星に着陸した。探検隊は慎重を期して住民との接触に当たるが、やることなすこと裏目が続き……
感想・解説:シェクリイには多いファースト・コンタクトもの。SF的意義は若干薄いかもしれないが、肩肘張らずに読めるユーモア作品。こういうのも良い。
●試作品
内容:宇宙探検者の新必需品“防衛器”のテストを兼ねて、未知の惑星に一人の男が降り立った。防衛器は確かに設計どおりの機能は果たすのだが――
感想・解説:これもユーモラスなファースト・コンタクトもの。SF的にも秀逸。どんな優れたテクノロジーも、TPOと適合しなければ無意味どころか逆効果だという教訓はいつの時代にも真理だ。
●人間の負う重荷
内容:ロボットの一団とともに小惑星の開拓に着手した一人の男。事業は軌道に乗ったが、男は幸福ではなかった。“人間であることの重荷”が男を押しつぶしつつあったのだ。そんなある日、彼らのもとに“花嫁通信販売!”の広告が舞い込むが――
感想・解説:これまたシェクリイ屈指の名作。心温まるSF喜劇。シェクリイと言えばブラックユーモア、バッドエンド、性悪説の印象が強いが、こういう面もあることを思い出させてくれる。
●悪薬
内容:殺人狂を自覚する一人の男。ある日一念発起した彼は自己治療のため“治療器”を購入するが、販売店の手違いにより火星人用の治療器を渡されてしまい……
感想・解説:確か『人間の手がまだ触れない』に「甲の肉は乙の毒」というセリフがあった。考えてみればシェクリイの作品(に限らずSFというもの)はそのような価値観の相違がもたらす結果を描いたものが多い。本作はその典型だろう。短編小説としても面白い。
●災厄を防ぐ者
内容:現代のニューヨーク。医学生の“ぼく”は、ある日謎の声に警告されて辛くも交通事故を免れる。それは神秘的存在ダーグ族――その姿は人間の目には見えず、その声は一部の特異体質者にしか聞こえない――の手助けだった。ダーグ族は24時間体制かつ“あくまで無償”で主人公に忠告を与えてくれるようになるのだが……
感想・解説:ファンタジー寄りの味付け、ただほど高いものはないという古典的な教訓、そして(意図的に)物凄くしょうもないオチが絶妙に複合し、秀逸な短編SFとなっている。
●家畜輸送船
内容:《AAAエース惑星浄化サーヴィス》もの。例によって金欠で首が回らなくなった二人。アーノルドは、知識も経験もなく、大手が独占している家畜輸送業務に安値で食い込もうと画策する。山盛りの懸案事項を抱えたまま離陸したグレゴーであったが――
感想・解説:グレゴーとアーノルドの掛け合いが楽しく、ユーモアものとしてもバディものとしても秀逸。また問題の発生と解決を主軸とする正統派サイエンス・フィクションとしても出来が良い。5編ほど邦訳されている《AAAエース惑星浄化サーヴィス》の中で、私は本作が一番好きだ。
●救命艇の叛乱
内容:《AAAエース惑星浄化サーヴィス》もの。例によって“訳ありの格安中古品”を買った二人。そのものとは宇宙救命艇。当初は予想以上に良い買い物をしたつもりの二人だったが、救命艇の人工頭脳が“目覚めた”結果――
感想・解説:人工頭脳との対決テーマ。これまた正統派サイエンス・フィクションぶりとユーモアが両立している。シェクリイの良い面の一つが結実した結果と言えよう。