【経緯】
Amazonからサジェストされて認知した。「え? 今ごろシルヴァーバーグの初訳作品が創元から?」「しかも“ニュー・シルヴァーバーグ”ではない、若いころの作品が?」「しかも伊藤典夫訳??(まだ存命だったのか!!)」「こんなうまい話、何かの罠じゃないのか?(統合失調症的発想)」などと思考は巡ったが一瞬で購入に至った。
【作品に対する評価】
悪い作品ではない。ストレートでシンプル。こういうニッチのSFはもっと翻訳されるべきだ。多作時代のシルヴァーバーグが変名の一つCalvin M. Knoxでエースのダブルの片側として書いたものだということで、その範囲内では充分に良い出来である。
しかし贅沢を言うと書き込み不足が目立つ。SFとしてもう少し掘り下げて書いてほしかった点は主に次の通り。
・小惑星採掘ブームに沸く時代の社会
・小惑星採掘のディティール
・主人公が苦しめられことになる電子的繁文縟礼
・(ネタバレになるのであまり具体的に言えないが)真のテーマ
このへんを1つでもいいからしっかり書き込んであれば傑作たりえた可能性もあるのだが……。
登場人物の書き込みも不足で、特にヒロインに魅力がないことは主人公の行動の説得力を著しく削いでいる。
結局、“無名作家によるエースのダブルの片方としては良作”程度に収まっているのが残念だ。
【商品としての評価】
帯に書いてある「人類が知ることのない、途方もない旅路」「名訳者が自ら選んだ、巨匠作家の若き日の傑作、本邦初訳!」という煽りは、どう考えても誇大広告である。
「途方もない旅路(たぶん主人公が出会う○○の体験か、それと××した主人公が味わう△△のことを述べているのだろうが)」は作品の主眼と呼べるほど書き込まれていないし、言うほど「若き日」の作品でもないし(いちおうデビューから10年は経っている。同時期の邦訳作品を上げると『大氷河の生存者』『多元世界の門』『生命への回帰』あたり)、これを「傑作」と評するならSF界は傑作・大傑作・超大傑作だらけになってしまう(「秀作」くらいの表現に留めておけばいいのに……)。
あと、これは個人の主観も入るが『小惑星ハイジャック』という邦題はセンスがない。もっと逐語訳的にするか、『盗まれた小惑星』くらいに意訳するか、開き直って全然原題とは関係ない邦題にでもしたらどうか。なんか最近、一周回ってこういう方向性でダサい邦題が多い気がする。『地球間ハイウェイ』とか(あ、これも伊藤典夫訳か)。
【まとめ】
まとめると、
・ぎりぎり良作と言えなくもないが今日的な意義は薄い(個人的には嫌いではない)
・売り方が不誠実かつセンス無し
あとこの薄さ(191ページ)で780円プラス税ってちょっと高くないですかね?
【追記】
クソミソに書いてしまいましたが、こういう刊行物は大歓迎ですので、東京創元社様もっと出してくださいお願いします。早川書房様もお願いします。