蔵書より(*1)。2・3年か、ひょっとすると10年以上放置していたが、正月休みを機に読んでみたものである。
総合的に見て、二流の娯楽SFというコンセプトの範囲内ではまあまあ悪くはなかった。
マイナーな作品であり情報も少なかろうから、軽く内容を紹介しよう。
人類が太陽系全域に進出した時代。主人公チャールズ・ファラダインは元・宇宙パイロット。「元」というのは数年前、「三重音声」を発する怪人物に操縦を邪魔されて客船を墜落させてしまった上、証言が信用されずにライセンスを剥奪されたからである。
ある日、どん底生活を送る主人公の元に麻薬取締局の使者が現れる。近年世間を騒がしている「地獄の花」という麻薬の出所を探るべく、悪名高い主人公を非公式スパイに徴用しに来たのだ。名誉回復・社会復帰を餌にされた主人公は話を呑むが――
という内容。
正直、序盤・中盤は主人公が何をやってもうまく行かず、世間からはなおさら白眼視され、逆恨み女に付きまとわれ、その割に麻薬の謎は全く解ける気配がないという具合でフラストレーションが貯まって仕方がない。代わりに何か光る点が一つでもあるかと言うと、(独特の雰囲気があると言えなくもない点を除けば)特段なにも無いのが厳しい。着想にしろガジェットにしろストーリーにしろキャラクターにしろ凡庸の極みなのである。
そのため原書の表紙に謳われているとおり「A science-fiction thriller」のまま話が進むのであれば本作はどうしようもない凡作のまま終わっていたのだろうが、【以下ネタバレ回避のため白文字】実際の本作は終盤で突如として侵略SFに相転移を起こすのである【以上ネタバレ回避のため白文字】。そこで全ての謎が急ピッチで俯瞰的に解消し、主人公は汚名をそそぎ、物語は大団円を迎える。フラストレーションが貯まりに貯まっていただけに、この解明パートは快感も大きい。
というわけで雑さ・稚拙さ・センスの悪さも随所に見られるが、解明パートを含むプロットが優れていると言えなくもなく、独特の味があると言えなくもなく、総合的にはまあまあの作品と言っても過言ではない。
ジョージ・O・スミス。昔から聞く名前ではあるが創元の『ブレーン・マシン』も早川の『宇宙病地帯』も全く語られないし(*2)、ましてや久保書店の二冊は存在すら認知していないSF読者が多いのではなかろうか。もう少し光が当たっても良い作家だと思う。特に短編は(私が唯一読んでいる『地球=火星自動販売機』から察するに)良いものがあるのではなかろうか。そのうち発掘していきたい。
*1 いつ、どこで、なぜ、いくらで買ったのか全く思い出せない謎の本。
*2 かく言う自分も、読んではいるはずだが印象は薄い。