電子書籍化されていることに気づいたのを機に再読。10年か、ひょっとすると20年ぶりである。*1
いやあ、実に面白い。記憶していた以上だ。これはもう90年代SFのマスタ―ピースと言っても過言ではないだろう。まず古典再解釈ものとして文句なしの出来ばえである。技巧的に秀逸だし、原典に対する深いリスペクトがあり、そして時間旅行家とウィーナの物語に納得のゆく終止符を打つことに成功している。また時間SF・ハードサイエンスSFとしても一流の部類である。
久しぶりに満足のゆく読書ができた。大長編にも関わらず、まるで若いころのように一気読みしてしまった。
ただ、この新版に敢えて苦言を一つ呈させてもらえるならば、表紙絵は変えないで欲しかった。上巻の“白いスフィンクス”も下巻の“青磁宮殿”も90年代大長編らしい良きSFアートで気に入ってたのだが……。合本にするなら縮小して両方収録するか、表紙絵と扉絵にするかできなかったのだろうか。変えるにしてもこのテカテカした画風の宇宙船(?)のカバー画は意図が全く不明だしセンスが悪い。SFは、装丁までを含めた総合的な芸術であるという認識を欠いた怠慢な仕事としか思えない。猛省を促したい。
*1 少々自分語りを許していただこう。本作(旧版)は、それまで図書館専門であった私がおそらく初めて購入した書籍であり思い出の作品である。
だいたい小学生末期ごろだっただろうか。自治体の図書館や小学校の図書室で児童向けSF全集を制覇し、自治体の図書館の大人向けの書棚に進出を開始した時期だ。当時、SF史や作家には無知だったがH・G・ウェルズは認知しており『タイム・マシン』は好きな作品だった。そしてある日書店で本作(旧版)に出会ったのである。ウェルズの遺族公認の続編という看板、“白いスフィンクス”のカバー・アート、そして本から発散される得も言われぬアトモスフィア。それらは少年時代の私をして初の書籍購入に踏み切らせるに充分だった。
当時の自分の学識や読解力では理解困難な箇所も多々あったが、全体としてはけっこう楽しく読めた記憶がある。