『鉄の神経お許しを 他全短編』・
『風前の灯火!冥王星ドーム都市』からの流れで久しぶりに再読(図書館にて借用)。やはり良い。
個々の収録作品については、抜粋で。
『向こうはどんなところだい?』
最低最悪の火星探検を題材にした、言わばアンチ・サイエンス・フィクション。必ずしも私の好みとは合致しないが、短編SFにおける一つの金字塔であることは認めざるを得ない。もう少し語られても良い作品だと思うのだが。
『狂運の彗星』
野田昌宏の著作(『図説~~』のどれか、あるいは『科学小説神髄』だったか)でも紹介されていたクラシック。彗星からの侵略者(全身サイボーグ)との遭遇、戦い、そして苦味の残る結末はむしろ恐怖小説のセオリーに沿っているかもしれない。とにかく秀逸なクラシックであり、これを本邦初訳してくれたのはありがたい。
他社の短編集と区別するために、『フェッセンデンの宇宙』よりも本作あたりを表題作にした方が良かったのではないか。
『追放者』
自分にとっては講談社文庫BXの『不思議の国のラプソディ』に載っていたのが思い出深い作品。メタSF、ショートショートSFの傑作。ハミルトンの才能の一つを如実に示すものである。本作ももう少し語られても良いと思うのだが。
福島正実、中村融、そして自分(すみません)のセンスが合致して嬉しい。
『太陽の炎』
『鉄の神経お許しを 他全短編』の巻末解説で、CFシリーズとの関連性が指摘されていたので読み直してみた。確かに同じモチーフ――ひょっとすると同じ世界の物語なのかもしれない。
そして本作も旧式で素朴な(科学万能・未来バラ色・人類礼賛な)SFに対するアンチテーゼであることがようやく理解できた。しかしハミルトンは極端から極端に振れるような慌て者ではないことも同時に理解できた。本作は、かつての無知・未熟・早計を認めた上でなお人類は先に進むべきだという力強いメッセージが示されているのである。
ハミルトンがさらに好きになった。そして、中村融も。
追記 自分が文庫版の方を持っていることに気づいた(危うくもう一冊買ってしまうところだった)。なお文庫には『世界の外のはたごや(新訳版)』、『漂流者(新訳版)』、『フェッセンデンの宇宙(1950年改稿版)(新訳版)』の3編が加わっているので、選択の余地がある人は奇想コレクション版よりこちらを入手するほうが良いだろう。