細江ひろみ訳
このごろ堂
『両棲人間』という作品自体は、あかね書房の少年少女世界SF文学全集に収録されていたもの(飯田規和訳)をSFキャリアの初期のころに読み、それ以来知恵が付いてからもベリャーエフの中では最も好きな作品の一つであり続けて来た。
その後、邦訳が何種類か存在することと、しかしいずれも残念ながら終盤が不完全らしいと聞いて完訳を読みたいと望んでいた。それが数年前Kindleで「決定版」と称するものが刊行されていることに気づき、聞いたことのない出版元・翻訳者ではあるが喜び勇んで購入した……のだが諸事情あって数年間放置していた。それが今回ようやく読んでみたわけである。
なお、ついでに国会図書館デジタルコレクションで偕成社版(北野純訳)と講談社少年少女世界科学冒険全集版(木村浩訳)が閲覧可能であったためそれらとの見比べ、ならびにコレクションしていた講談社青い鳥版(木村浩訳)も見比べてみたものである。
感想としてはやはり面白い。『ドウエル教授の首』と並ぶ、ベリャーエフの――と言うより戦間期ソ連SFの最高傑作である。
今回読んだ細江ひろみ版は、訳文に全く不満なし。アマチュアとは思えない出来だ――と思ったらプロ翻訳家ではないにしても、プロ著述家ではあるようだ。志のある、良き仕事を称賛したい。
で、既存の邦訳の関係もようやく分かった。
・講談社少年少女世界科学冒険全集版(木村浩訳)と講談社青い鳥文庫版(木村浩訳)は(全文を完全に比べたわけではないが恐らく)同一。
・終盤、アルマン博士とアンドレの出会いが描かれるのは偕成社版(北野純訳)のみ。このくだりは今回読んだ決定版にも無いことから、偕成社版の創作かと思われる。
・木村浩訳、北野純訳はいずれもやや低年齢(小学校中学年程度)向け。飯田規和訳の方が完訳に近く、細江ひろみ版と比べてもほとんど遜色がない。