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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

ラインスター『宇宙震』(電子版)レビュー+感想

ハヤカワ・SF・シリーズから出ていたラインスターの日本オリジナル短編集『宇宙震』であるが、この度グーテンベルク21という心ある電子出版社から電子版が刊行されたため、購入した。

読むのは十年ぶりか二十年ぶり、通算三・四回目だろうか。その程度であるため再読にしてはなかなか新鮮な気持ちで楽しめた。

『禁断の星』川村哲郎訳
内容:謎の宇宙病に罹った恋人を科学的手段で救おうと奮闘する男。だが敵は疫病だけではない。愚かで傲慢な官僚機構が彼らを抹殺すべく動いているのだ……
感想:問題の発生と科学的解決を主題にした、実に正統派のサイエンス・フィクション。こういうので良いんだよ。官僚機構との戦いはむしろ余計な要素と感じる――と言うより、大人になった今では愚鈍で傲慢な官僚どもをあっさり一掃できてしまうハッピーエンドをあまりに楽観的・ご都合主義的な絵空事と感じてしまい、白けてしまった。

『失われた種族』川村哲郎訳
内容:大昔、宇宙に広く繁栄した種族がいた。だが彼らはある時ふつりと絶滅した。その謎に挑んだ男が辿り着いた真実とは――
感想:これは他の短編集などにも収録されているので知っている人も多いだろう。宇宙の落とし噺。こういうのも嫌いではない。

『破滅が来る!』川村哲郎訳
内容:遠未来もの。宇宙自体が老い、太陽系にも当然寿命が迫っている時代。地球に残った数少ない人類は、古代のテクノロジーを発掘して破滅を食い止めようとする。
感想:いまひとつ美点が見いだせない。舞台やディティールにも、主眼となるガジェットにも、ストーリーにも、もちろん登場人物にもこれと言った魅力がない。まあ、「一九四四年から四九年の五年間に発表されたラインスターの短・中編の中から、とくに評判のよかったもの五編をあつめた」(巻末解説より)とのことなので、いつかの時期のどこかのコミュニティでは評判が良かったのだろうが……

『孤独な星』井上一夫訳
内容:知性を持った天体と人類とのコンタクト・テーマ。
感想:いまひとつパッとしないように感じられるが、発表当時としてはテーマ自体に新規性があったのかもしれない。

『宇宙震』井上一夫訳
内容:地球を二度に渡り震撼させた大災害“宇宙震”。三度目が来れば地球は破滅を免れない。その正体を見抜いたのは地球きっての天才科学者にして大発明家のブラディックのみ。彼は自分の発明を狙う悪のコンツェルン「原子力会社」と闘いながらも、記憶喪失の美女ジェーンと共に何とか宇宙船を建造し、宇宙震を止めるべく地球を飛び立つが……
感想:超正統派のパルプSF。こういうので良いんだよ。もちろん、これを陳腐なステレオタイプと取る人間もいるだろう。だがステレオタイプという表層ではなく作品の内奥に潜む魅力を――SFが素朴で天真爛漫だった時代の若々しいエネルギーを素直に感じて欲しい。この時代のハヤカワ・SF・シリーズにあって表題作たりえたのは納得が行くことだろう。
ちなみに私にとって本作はむしろ国土社の児童向け版『宇宙大激震』の方が印象が強い。原作の忠実な翻訳という意味では井上一夫訳が当然勝っているのだが、小説としての面白さは『宇宙大激震』が明らかに上だった記憶がある。いま調べ直したらそちらは福島正実が訳者だった。やはり福島正実のリライト術は卓越しているなあ。

追記:調べたらハヤカワ・SF・シリーズ版には『最初の接触』と『鍵の穴』(どんな話だっけ?)も収録されていたようだ。なぜこの電子版でそれらが欠けているのかは不明。著作権的な問題でもあったのだろうか? 『最初の接触』はどこでも読めるので良いとして、『鍵の穴』は何とか収録して欲しかった。
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