サンリオSF文庫
脇明子訳
1984年
あるところでちょっと言及されているのを見て関心を持ち、国会図書館デジタルコレクションで読んでみた。
ル・グィン版『虚空の眼』とでも言えば良いだろうか。暗澹たる近未来。夢で現実を改変してしまう男、男を利用して世界を改良しようとする精神科医、それに気付いた女弁護士。そして毎回絶妙にずれた結果になってしまう改良試行。章程度の小さい領域に着目すればなかなか読ませると言えなくもない。
しかし本全体として見れば納得が行かない、と言おうか根本的にこの人は「SF的ガジェットを活用した小難しい何か」を書こうとしているのであって普通に筋の通った従来的な枠組みのSF小説を書くつもりがないのだろう。これって要するに「科学や数学をバカにしてるくせに科学や数学を自分たちの権威付けに利用するポストモダン論者」と同じではあるまいか。また、後書きの受け売りだが題名が荘子の英訳の誤訳に基づいているのが最高にダサい。東洋思想に凝ってるニューエイジ白人の愚かさを象徴しているかのようだ。
やはり私はこの手の作品や作家が嫌いだ。そして、こういうのを「ハイブロウ」だともてはやす類の人間はもっと嫌いだ。
まあ、多少は斬新な読書体験ができたとは言えなくもないのは良かった。