白状すると――練達のSF者、しかもヴァン・ヴォークトの大ファンを自称しておきながら言語道断であるが――本書をまともに通読するのは初めてである。少年時代に二・三回は読もうと試みたのだが毎回どうしても退屈で苦痛でせいぜいゴッセンが金星に行くあたりで投げ出してしまっていたのである。今回は何となく本棚を眺めていたら目に入ったので再読してみたものである。年の功か、いちおう通読できた。
で、感想だがやはりあまり面白くなかった。
いちおう言っておくとヴァン・ヴォークト特有のスピード感のあるアクションの連続は健在だし、そこここにヴァン・ヴォークトらしいアイディアやモチーフが豊富に含まれているのは確かだ。また意味論を拡張した(?)《非(ナル)A》という哲学(思考法?宗教?)が尊ばれていたり《機械》という巨大電子頭脳が社会を管理していたり、両者に基づく《ゲーム》によって支配者階級が選別されたりする未来社会は興味深い。
しかし何かが根本的に足りない。主人公に魅力が無いとかヒロインに魅力が無いとか悪役に魅力が無い(そもそもどいつが主たる悪役なんだ?)とかは些細な問題で、やはり本質的な問題は、主人公が(超人のくせに)巨大な陰謀に翻弄されるばかりで全く事の真相が見えて来ないことだ。実にフラストレーションがたまる。そして終盤でバタバタと開示される構図が陳腐で卑近で薄っぺらく不自然で説得力がなく、さんざん焦らされた読者を満足させるには全く至らないことだ。また、主観で申し訳ないが『スラン』や『宇宙船ビーグル号』に濃厚に満ちているあの精気が極めて希薄であることも致命的な欠点である。
はっきり言って張子の虎のような作品である。ヴァン・ヴォークトの才能はこの時点でほぼ完全に枯れていたと見るべきであろう。