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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第12回

SFロマン文庫第12巻、シルヴァーバーグの『大氷河の生存者』を紹介します。

 
【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:12
題名:大氷河の生存者
原書:Time of the Great Freeze (1964)
著者:ロバート・シルヴァーバーグ (Robert Silverberg)
訳者:長谷川甲二
イラストレーター:中山正美
対象年齢:小学校高学年~中学校前半程度(※レビュアーによる見解)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:B+
小説としての良さ:A+
総合評価:A
 
【梗概】
近未来、地球に氷河期が到来。温帯・冷帯の諸国は成す術なく地下に潜った。そして数世紀後の地下都市ニューヨークで物語は始まる。
都市間の連絡は何世代も前に途絶え、政治は専制的になり、人々は無気力な毎日を送っていた。
主人公(十七歳の少年ジム)と仲間たち(ジムの父で一行のリーダー格である歴史学者バーンズ博士、弁護士ロイ・ビーダー、比較言語学者ダム・ハンノン、動物学者チェット・ハリントン、気象学者デイブ・エリス、電子工学技術者テッド・キャリソン)は、氷河期が終わりつつあることを発見し、地上への帰還を企図し、また違法無線機で外部との連絡を試みていた。
しかしそれは前例踏襲的な地下都市では許されなかった。彼らは最小限の装備とともに地上へ追放される。飛び入りの脱走警察官カール・ボーリンを仲間に加え、一行はロンドンを目指す。生きている確信のある都市はそれだけだからである。
(※ネタばれ回避のため、以下白文字)
地表は死の世界ではなかった。トナカイや狼、そしてエスキモー的生活の野蛮人が生存していた。後退した大西洋へと向かう彼らは言葉も通じない野蛮人を文明の利器で煙に巻くが、言葉が通じる程度の野蛮人ドーニイ族とは交戦を免れなかった。ジムの柔道が物を言い、一行は難を逃れる。
続いて一行は斜面族の一つジャージー族と出会う。彼らは文明時代の思い出を口承伝承している友好的な種族だった。彼らの口から、一行はすでに大西洋が解氷していることを知る。ジャージー族の族長の息子ケナードの案内で一行は海岸へ旅を続ける。
海岸に出た彼らは、ヴァイキングのような航海種族との遭遇に成功する。だが彼らとの交渉は難航する。ジムは航海種族のリーダーに決闘を申し込み、百戦錬磨の巨漢を相手に柔道の力で辛勝し、仕事を了承させる。
イギリスに着いた彼らは出迎えのロンドン隊と邂逅を果たす。会談を抜け出したジムは偶然にもロンドン隊の若い隊員コーリンを野獣から救う。恩義を感じたコーリンは白状する。ロンドンはニューヨーク隊をスパイと見なしており、情報を引き出せるだけ引き出した後は射殺するよう命令されている、と。
二人が会談の場に戻ると、果たして戦闘が始まっていた。若者たちの尽力と、突如飛来した未知の航空機の脅威により、彼らは休戦に至る。
とりあえずロンドンに向かう彼らだったが、ジム、テッド、コーリンは吹雪で本隊とはぐれてしまう。数日間さまよった三人は飢えと寒さでついに意識を失う。
目を覚ました三人は南米にいた。彼らはブラジルの偵察機に救助されたのだ。そして彼らは南方諸国がようやく北方の救助活動に動き始めたことを知る。ジムたちは新たな大仕事に対して決意を新たにするのだった。
(※ネタばれ回避のため、以上白文字)
 
【感想・評価】
良作です。やや地味ですが、非常にバランスの良いジュブナイルSFです。個人的にも文庫内でかなり好きな作品の一つです。
『わすれられた惑星』ほどではありませんが、少年(青年)の成長物語の要素が強いのも良いところです。主人公が日本の柔道を能くするという設定も良いですね。
あと現役時代の感触としては、ポスト・アポカリプスものをおそらく初めて読んだので新鮮に感じた記憶があります(SFロマン文庫は明るい未来像のSFが多いので、『タイム・カプセルの秘密』を先に読んでいたのでない限り、これが初のポスト・アポカリプスものでした)。
あえて欠点を挙げるとすれば、訳者あとがきにも述べられているように「しりつぼみの傾向」が拭えないことでしょうか。とはいえそこまで気になるものではありません。
そしてイラストは安定の中山正美。申し分ありません。
 
【ビブリオグラフィ > トリヴィア】
この文庫に長編が二冊収録されているのは、ポール・フレンチと福島正実を除けばシルヴァーバーグだけです。なので初期の私にとってシルヴァーバーグはかなりのビッグネームでした。本当にビッグネームであることを知ったのは1・2年してからのことでしたが。
 
訳者に長谷川甲二を起用しているのは本文庫ではこの一冊だけです。あまり聞かない人物ですが、ハヤカワ文庫のターザンものの一部や、アンドレ・ノートンの普通小説『メニエ騎士像のなぞ』など十数冊の訳書がある人のようです。児童文学系の人なのか? メインで別の仕事がある文筆家の別名義なのか? よく分かりません。
(追記)灯台下暗し。現物の巻末に一応訳者紹介がありました。以下引用。「1925年栃木県生まれ。文化学院文学部卒。英米児童文学研究家。主な著訳書『メニエ騎士像のなぞ』(学研)、『あわてんぼ博士の発明』(偕成社)などがある。」
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫(1971年) → SFロマン文庫(1986年)。
平成版には未収録。むしろ今日において陳腐化の度合いが最も軽微な作品の一つだと思うのですが……
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