無人島の三少年
バレンタイン原作
那須辰三編著
武部本一郎画
偕成社 名作冒険全集Vol.42 昭和34年
先日の『新ロビンソン物語』を発端としてもっとロビンソナーデを読みたくなり、ふと思いついたのがバランタイン(R. M. Ballantyne)の『珊瑚島』"The Coral Island (1857)"である。日本では作品が直接的に知られているというより『蝿の王』のアンチテーゼ元(?)として間接的に有名な本作であるが、調べてみて驚いた。一世紀半にもなる翻訳出版史の中でさすがに一度や二度や完訳がなされているものと期待していたのだが、どうやら翻訳らしい翻訳はこの『無人島の三少年』しか存在しないようなのだ。不幸中の幸いで、国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能なので早速読んでみたものである。
結論としては、この『無人島の三少年』はあまり良くなかった。ただしそのことは『珊瑚島』が良い作品かどうかとは合致しない。なぜならば、『無人島の三少年』はかなり極端なリライトだと思われるからである。ウィキソースの原文とちらりと見比べてみたが、ほとんど跡形もないくらい短縮・単純化・幼年向け化がなされているようである。
本ブログで度々述べているように、私は抄訳否定論者ではない。むしろ巧みなリライトは下手な完訳に勝ると信じている。しかし本書の抄訳はあまり巧みでもないし魂もこもっていないのではないかと疑わざるを得ない。時代を超えて読み継がれる名作のアトモスフィアがどうしても感じられないからである。
仕方がないので今度は原文を(みらい翻訳の力も借りて)精読してみよう。
2024/05/19追記 『さんご島の三少年』(加納越郎訳、世界文学社、昭和24年)という、より良さそうな翻訳もあることに気付き、こちらもデジタルコレクションで読んでみた。序盤を原文と見比べた限りでは那須辰三版よりは原型に近く、原作のスピリットも残っているように思える。ただしこれでもなお訳者あとがきによると「4・500ページにはなるであろうところ、短縮した(結果200ページ少しになった)。」とのことなので半分程度の抄訳であり、原典の魅力を十全に伝えるものではないように感じる。三度手間になるがやはり原文を(科学技術の力を借りて)読まねば。