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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

ジョージ・O・スミス『宇宙病地帯』感想

先日『地球発狂計画』を読んだので、久しぶりに再読したくなって調べてみたところ国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスで読めるようになっていることに気づき、読んでみた。おそらく大昔(前世紀?)に一度か二度読んだきりだったのでほとんど内容も記憶に無く、初読に近い新鮮な気持ちで読めた。

感想としてはまあまあだった。どう足掻いても二流でしかない『地球発狂計画』に比べれば明らかにレベルが高く、一流半の域に達しており、その範疇での細部の出来は良いところも少なくない。

まず舞台設定が優れている。近未来のアメリカ。科学技術を発達させた人類は金星に到達している。そしてもう一つの大きな進歩が超心理学で、ライン博士と後継者たちの尽力により超能力の開発方法が世に普及し、読心者と透視者が珍しくなくなっている。この設定の下、例えば警察官は読心者と透視者がツーマンセルで行動するのがセオリーだったり、住宅は「死角地帯」に建てるのがセオリーだったり、と興味深い外挿が描かれる。

物語は、婚約者とのドライブ中に大事故を起こした主人公が意識を取り戻すと婚約者は失踪しており、それどころか誰も同乗者の存在を認めず……という『幻の女』的な探索系スリラーとして始まる。主人公が探索を進めるうちに、婚約者の失踪はメクストローム病――金星からもたらされたと思われる奇病で、人体が徐々に硬化し死に至る――を巡る陰謀の一環であることが浮かび上がってくる。そしてそれがさらに超人テーマへとつながっていくという構成はなかなか優れていると言える。テーマをスリラーで包む手法が『地球発狂計画』以上に成功している。

ただし、実際に読んでいるとストーリーはバランスが悪いと言おうか不器用と言おうか、少々退屈を覚えた。登場人物像があまりにも紋切り型で、感情移入もできないし行動原理も理解しがたいという問題も『地球発狂計画』と共通している。そういう欠点の総和が、ジョージ・O・スミスがいまいち一流作家として扱われない(いや、本国では扱われているのかもしれないが)まま忘れ去れてしまった(いや、本国では忘れ去れてはいないのかもしれないが)理由かもしれない。

とは言え独特の魅力はそこはかとなく感じさせる作家であることは確かであるため、そのうち『ブレーン・マシーン』再読と『太陽移動計画』読破を目指したい。できれば代表作とされている"Venus Equilateral"も読んでみたいのだが誰か翻訳してくれないだろうか。
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