アレクサンドル・ボグダノフ作
大宅壮一訳
新潮社 大正15年
昔から存在は認知していたが、
先日読んだ『大衆文学十六講』で言及されていたことを機に調べ直してみたところ、国会図書館デジタルコレクションで読める状態になっていたので読んでみた。
旧漢字・旧カナ遣いでなおかつ語彙も古く、さらにスキャン画質が劣悪(ただしこれはそもそも原本が劣化していた可能性も高いが)なため序盤は少々難儀したが、中盤以降は慣れてきて戦後の普通の本の半分くらいのスピードで読み通すことができた。今日のそれとはスタイルが違うなりに訳文が明快なことにも助けられたのかもしれない。
内容的にはかなり良かった。1908年の作品ということで甘く見ていたのだが、同時期の西欧の作品に勝るとも劣らない。反重力物質(?)の理屈付けは精緻だし、地球より早く冷却し地球より早く水や空気が流出しなおかつ各種地下資源を地球より早く使い始めた火星があらゆる資源不足に陥るという考えも筋が通っている。また地球とは違って全土の交通が容易である火星でヒューマノイドがいかなる歴史を辿り、いかなる社会を築くか、良く考察されている。
ユートピア小説としては珍しく、中・後半でストーリーがあまりダレないことも評価したい。
終盤の展開がやや性急かつ不自然なのが惜しまれるが、総合的に見て良作であり楽しく読めた。