古屋健三訳
集英社コンパクト・ブックス ヴェルヌ全集 第24巻
1969年
創元版『オクス博士の幻想』は何度か読んでいるのだが、おそらくまだ読んだことのない『ラトン一家の冒険』が本書に収録されていることを最近ようやく認知したためそれを読破すべく図書館で借りて来たものである。
『ドクター・オクス』
かなり久しぶりに再読。とても面白かった。昔々創元版を読んだ時はヴェルヌの不器用さが生み出した陳腐の極みかと愚かにも誤解していたのだが、ヴェルヌの優れたセンスが生み出したソフィストケイテッドな寓話SFであることがようやく理解できた。こういう感じの作品をもう五編や十編は書いて欲しかった。
『ザカリウス師』
最近パシフィカ版で読んだので省略。そちらの項を参照。
『ラトン一家の冒険』
風変わりなヴェルヌの短編の中でも飛び抜けて風変りだ。メルヒェンであり、コメディであり、そしてまた登場人物たちが妖精の力で軟体動物→魚→鳥→獣→人間と「進化」するサイエンス・ファンタジーでもある。変わり種というか箸休めというか、そういうものとしては楽しめないこともなかった。しかし今回私が読み取れた限りではあまり出来が良くはないし、テーマらしいテーマも無いし、これと言った見どころが無かった。
なお、読んでいて覚えのある箇所に遭遇しなかったため、やはり本作は(なおかつ本書は)初めてだったようだ。おそらく書名だけを見て創元版と変わらないと誤解して避けていたのであろう。
『永遠のアダム』
学生時代にパシフィカ版で読んで以来だとすると、ずいぶんと久しぶりに再読したことになる。あらためてその現代性に驚く。1910年の作品とは思えない。これは「驚異の旅小説」や「サイエンティフィック・ロマンス」ではなく「SF」と呼ぶべきであろう。しかも出来の良いSFだ。単にアイディアが優れているだけでなく、充分な筆力で細部に巧みな肉付けがなされていることがアイディアを効果的に際立たせている。
これがジュール・ヴェルヌの作品だとすればまさに異色中の異色作であろう。
最近の情報によれば息子ミシェル・ヴェルヌの作品――父親の作品に息子が手を入れたのではなく完全に息子のオリジナル――らしいが、そうだとすれば平仄が合う。