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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

Don Wilcox『The Voyage That Lasted 600 Years』感想

題名:The Voyage That Lasted 600 Years(600年の旅路(仮))
著:ドン・ウィルコックス(Don Wilcox)
発表:アメージング・ストーリーズ 1941年1月号
サイト:The Voyage That Lasted 600 Years by Don Wilcox - Amazing Stories

『SF百科図鑑』(サンリオ)で「宇宙船と星間飛行」の章を読んでいたら、世代型宇宙船テーマの最初のものの一つとして紹介されており(*0)、興味を持ったのでググってみたところ公式サイトで作品全文が公開されていた(*1)(*2)のでこれ幸いとみらい翻訳 for yadattaで読んでみた。

素晴らしい。世代型宇宙船テーマSFの原点にして頂点。まさにエポックメイキングな古典的名作。SF史に燦然と輝く金字塔。最初の作品でこのテーマはほとんど全てが言い尽くされていたことが分かった。

あまり具体的に内容に触れると読書の興を削ぐだろうから語らないが、世代型宇宙船テーマの最初の作品でありながら、その運用が単なる世代型ではなく主人公を〇〇することにより××するという斬新で一石二鳥・三鳥な工夫(*3)や、意外性のある結末(*4)には称賛の念を禁じ得ない。
なぜ本作が日本のSF界ではほとんど全く知られていなかったのか(知らなかったのは無知な私だけだった可能性は否定しないが…)、理解に苦しむ。やはり日本におけるサイエンス・フィクションはしょせん移植された底の浅い文化に過ぎないということか。

とにかく心あるSF読者は騙されたと思って読んでみて欲しい。

*0 『銀河は生きている』(1934年)にアイディアの発現が見られ、本作で明確なテーマとして扱われた旨が述べられている。
*1 
アメージング誌は廃刊したものだと理解していたが、少なくともサイトは残っているようだ。
*2 どういう基準か分からないが他にもいくつかの作品が(クラシック的意義ありと見なされた作品が?)公開されているようだ。そのうち読んでみたい。
*3 *4 いずれも後発の(それぞれ別の)世代型宇宙船テーマSFで類似したアイディアが使用されていることからも、本作の先見性が際立つ。

2023/07/24追記:ツィオルコフスキーの『月世界到着!』(1916)――ロケットによる宇宙航行と宇宙植民の全てが一挙に示されたエポックメイキングな名作――で、すでに世代型宇宙船の萌芽と言うべき考えが示されていることに気付いた。引用しよう。
「だが、ほかの太陽の惑星までは、われわれは生きてたどりつくことはとてもできない。そうするのには、人間の寿命の方が足りないからね」こうヘルムホルツがいった。
「事実」こんどはロシヤ人が口をきいた。「ケンタウルス座(α)にあるわれわれから二番目に近い太陽までは、三百八十億キロメートルある。この道程を行くのには、一秒間百キロメートルもの速度で進んだとしたところで、一万二千年かかるのだ。大グループで出発したとして、やっと四百代目にこの太陽にたどりつくことになるだろう」
(『月世界到着!:ヒマラヤから月へ』早川光雄訳、朋文堂、1960年、p32)
まさにロケットの父である。
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