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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

ベリャーエフ『難破船の島』感想

著:アレクサンドル・ベリャーエフ
訳:青野丸香
出版社:デザインエッグ
刊行日:2022年8月

以前『世界のおわり』の感想で言及した本をようやく読んでみた。

アメリカの映画をベリャーエフがロシア語に翻案した小説(であるそうだ)の、本邦初訳のオンデマンド本である。訳者は良く見たらステープルドンの『火炎:ファンタシー』を自費出版していたのと同じ人だ。実に志のある人だ。

時代は戦前、サルガッソー海の浮島(長年に渡る難破船の集合体)を舞台にした冒険ミステリーで、なかなか楽しめた。狭義のSFではなくベリャーエフの持ち味があまり活かされていないとも言えるが、プロットもキャラクターも悪くないし、これはこれで独特の雰囲気がある。翻訳の品質も商業出版物に比べて特に劣るところはない。

しかし、ただ一つだけ言わせてもらえるならば、本の帯(帯っぽくデザインされているだけで実は本体の下部なのだが)の文言――表紙側が「私はもう欧州には飽々しております」。裏表紙側が「お嬢様は完全に自由」――があまりに的外れだ。前者は確かにヒロインであるビビアナの序盤でのセリフなのだが、これはある意味言葉の綾のようなセリフであり彼女の人間性を象徴するようなものではない。ビビアナはこの帯から想像されるような我儘お嬢様ではない。むしろ健気な良い娘だ。また、この帯が暗示するように物語はビビアナ一人を中心として進むわけでもない。この奇妙な文言が誰がどういう目的で入れたものなのか。商業的出版物であれば作品に敬意も愛着も持たない愚かな編集者が安易な商業的効果を狙って入れたものと推察できるが、志のある自費出版物にこの帯は全くもってミスマッチであり、ミステリーである。
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